【ショート】 最後の夢
―― short story ――
それは手作りの木箱だった。
手のひらに収まるくらい小さい。
静かに開くと、中から朝顔の栞が顔を出す。
触れると、木の香りが漂った。
箱もドライフラワーにした栞も、全部、懐かしい。
一体、いつから触れていなかっただろう。
「妙子」
声を聞くと、体が軽くなる。
「修二さん」
振り返る。
吸い寄せられるように駆け寄ると、
箱を持った私の手をそっと握る。
「……行こうか」
やわらかく笑う。
でも、その目だけが、少し遠かった。
「……心配事ですか?」
問いには、答えてもらえなかった。
伸ばしかけた手が止まる。
動かない私の肩に、手が回る。
引き寄せられると、囁くように言った。
「……幸せだったよ」
悩んでいたことが吹き飛ぶ。
ふわっとした空気に包まれ、口が弛む。
「……また、一緒に散歩に行きましょうね」
「あぁ、次は温泉がいいんじゃないかな」
「いいですね、では、紅葉の季節に行きましょう」
修二さんの瞳から影が消える。
肩の力が抜けると、箱に目を落とす。
「修二さんからもらった箱、無くさなくて良かった」
微笑むと、修二さんの目元もやわらいだ。
「……大事にしてくれたんだね。嬉しいよ」
「私の宝物なんです」
「先生、………妙子さん、笑ってるみたい」
モニターから電子音が響く。
一定に。
真っ白な影に囲まれた空間で、眼鏡をかけた医師が脈を測る。
「………いい夢なんじゃないか。」
そっと、離す。
「ご家族がいないのに……」
看護師は声を潤ませる。
妙子が両手で大事に抱えていた箱は、外れなかった。
看護師は、小さく息を吐き、手を離す。
二人は手を合わせた。
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