【ショート】 最後の鍵
―― short story ―—
――これで、最後だ。
扉を開け、そして、閉める。
ぱたん。
小気味よい音が辺りに響く。
これが最後の鍵だった。
使い終わった鍵は砂のように、崩れて消えた。
全ての鍵を使い終わったのだ。
俺の役目は終わり。
何もない白い空間に、
門が立っている。
門の先には、おびただしいほどの扉が並んでいた。
ここにある全ての扉の鍵を開けた。
閉ざされた扉は一つもない。
これが俺の役目だった。
門にもたれ、座り込む。
一体、どれほどの年月をここで過ごしたのだろう。
果てしない時の中で、
時折、迷い込む者たち。
俺は自然と帰り道を知っていて、
彼らを導き続けた。
もう、なぜ、自分がこんなことをしているのかさえ、
覚えていない。
全ての鍵を使い終わったのに、
何も起こらない。
もう、ここから出られないのであろうか。
絶望すら感じず、
ただ、そこにある。
その時、かちゃっと扉が開いた。
――どこだ?
振り返って、確認する。
瞬時に確認が取れないほどの扉の数。
だが、静寂に響いたのは、
扉が開く音だった。
また、迷い込んできたのか。
しかし、もう帰してやるための鍵はない。
しばらく待っていると、
遠くから、女性が歩いてくる。
誰だか分からない。
目の前まで、来ると、
不思議と既視感を覚えた。
そして、触れたくなった。
久しぶりの人。
いつも、迷い込んでくるのは、
動物や死人だったから。
女性は背中の後ろから、じゃらりと鍵を取り出した。
鳥肌がたった。
まだ、続くのか。
そう、思って。
しかし、恐れは裏切られた。
「……次は、私の番」
俺は目を見開いた。
彼女の温もりが俺の腕の中にあった。
とくん、と、胸が鳴る。
彼女の涙が俺の胸の中でこぼれ落ちる。
――そして、思い出す。
俺たちは、もう二度と会えない。
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