【ショート】 狐火
―― short story ――
一筋、熱いものがアスファルトを濡らした。
自分の足音だけが耳に入る。
遠くには、オレンジ色の陽が沈んで闇が顔を出す。
ぼんやりと見つめながら、
なぜ、私が今ここを歩いているのかを思い巡らす。
思考がゆっくりとしか、ついていかなかった。
ただ、目の前に現れた青白い光が丸くなったり細くなったりして、
不規則に揺れていた。
ふらふらとついて行く。
すると、青白い光がオレンジ色に染まった。
道を外れると、また青白くなる。
ふと、物悲しくなった。
また光を追う。
少しずつ、オレンジ色に変わる。
なんだか、喜んでいるかのように見えた。
胸が静かに高鳴って、また、ふらり、と追いかける。
からん。
ころん。
下駄を引き摺りながら暗闇の草むらの中へ入り込む。
草を掻き分けようと木に触れると、鋭い痛みが走った。
目線を落とすと、小さな木の枝で、擦り傷ができたのだと気づく。
刹那、ざわっと木々が揺れる。
少し心臓の音が早くなる。
辺りを見回しても、ただ葉の掠れる音が聞こえるだけだった。
深く息を吐く。
息を吸い込むと、夜の匂いが体を満たした。
……どうして、私、こんなところに?
かさ、かさ、と何かがいる気配がした。
急に鳥肌が立つと踵を返す。
トン、と何かに体が当たった。
群青と金魚柄の着物。
覗く胸板に手をついてしまう。
……あ。
謝ろうと顔を上げる。
その人は狐のお面をつけていた。
お面を少しずらして見えた口元は吊り上がっている。
ゾクっとして背中を仰け反らせると、バランスを崩した私の腰に腕が回った。
その腕は、不思議なくらい安心できるものだった。
「……誰?」
お面を外す。
不意に目から涙が溢れる。
口付けが落ちる。
なぜかは分からなかった。
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