これは、たぶん、始まりの物語。——仕事を辞めた日のこと。
―― short story ―—
——電話が鳴った。
「……⚪︎⚪︎不動産です。お世話になっております。……」
その声を聞いた瞬間、
何かが終わる気がした。
事務所に戻り、そっと席に腰掛ける。
ため息をついて、肩を落とす。
パソコンの画面には、やりかけのExcelデータと鳴り止まない電話。
チャットで上司と同僚からの通知が並ぶ。
心にスイッチを入れる。
右手で受話器を持ち上げて、
何もなかったように、キーボードを打ち始めた。
「……ママ、学校行きたいくない」
——きた。
とうとう、この日が来てしまった。
気づけば、
同じ場所に、ずいぶん長くいた。
朝は早くて、夜は遅い。
民間学童に入れて、夜遅くに娘を迎えに行く生活。
母親との時間が足りないのは十分自覚していた。
学校を楽しんでくれることが、せめてもの救いだったのに。
娘の話を聞いていると、すぐに気持ちが切り替わるものではなさそうだった。
2年生の秋ごろから年末まで、ずっと、この調子だった。
仕事も早退したり、調整して有休をもらったりして、
娘との時間を増やしたけど、
慰め程度だった。
理由は、なかった。
だから、
余計に、わからなかった。
会話がない訳でもなくて、愛情が足りない訳でもない。
ただ、一緒にいる時間が、土日しかないだけだ。
「お疲れ様でした」
ロッカーで着替えをして、職場を後にする。
バス停まで歩いて、スマホを出した。
『不動産屋から連絡きた。出て行くって』
メッセージを送信する。
パパの帰りは遅い。
家のことを、思い出す。
——帰る場所が、空く。
娘の顔が浮かぶ。
ずっと、心にしまっていた言葉が外に出たがった。
「……辞めるか。」
胸がすっと軽くなった気がした。
——これは、物語じゃなくて、COBIToの話。
※これは、何かを教えるためのものではありません。
ただ、私が選んだ道の話です。
小さく迷っている人へ。
コーヒー一杯分くらいの気持ちで、受け取ってもらえたら嬉しいです。
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