【ショート】 消えない足跡
―― short story ――
――駿くんだった。
胸の奥が冷えていく。
暖炉の前にいるのに、震えが止まらない。
「……寒い?大丈夫?」
毛布を取ってきて、私の肩に掛けてくれる。
そっと、肩を引き寄せて駿くんの腕の中に包まれる。
……どうして。
私はぎゅっと背中に手を回す。
「お、どうした」
駿くんが照れたように笑う声が聞こえる。
体温が近いのに、落ち着かない。
駿くんが私の背中を優しく撫でた。
「おい、おい。こんな状況だってのに、カップルはいいよなぁ」
「……ひがむなよ。」
「ひがんでなんかないさ。」
205号室の田畑さんと遼河さんが、喫煙場所で話をしている。
声が大きくて、ロビー全体に響く。
他の人たちは、ロビーのソファに座り、
私と駿くんは暖炉の前のソファで肩を寄せていた。
二人の声がやむと、静かになる。
緊張感が続く。
その時、
キィっと、ペンションの扉が開く。
「警察です」
二人の警察官が入ってくる。
慌てて、支配人の横谷さんが立ち上がって、案内する。
「こちらです……階段下に。」
警察官の一人が確認すると、無線で喋っている。
後ろから、続々と検察官や警官が入ってくる。
一人が近づいてくる。
「事情聴取を行いますので、みなさん、順番にお声がけしますね。」
私たちは、促されるまま従った。
事情聴取は時間がかかった。
終わった後も、長いこと待たされた。
部屋に戻って良いとされたのは、三時間後だった。
「せっかくの旅行だったのに、ごめんな、澪。」
「……どうして、駿くんが謝るの。
こんなことになったら、旅行どころじゃないでしょ。」
……駿くん、どうして。
大学四年の終わりに、
お互い就職が決まったから遊びに行こうと、山のペンションにお泊まりに来た。
そこで、出くわしてしまった。
私とずっと一緒にいた駿くん、お部屋も一緒だから、彼にはアリバイがある。
もちろん、私にも。
だから、どうやったのかは分からない。
でも、私には……
駿くんが部屋の戸を開ける。
ベッドの上に腰掛けると、駿くんも続いた。
ため息が落ちる。
……どうして、こんなことを。
考えても、考えても分からない。
影を感じて、顔を上げると駿くんの顔が近くにあった。
触れる。
胸が跳ねる。
じんわりと温かくなる。
――失いたくない。
首に手を回す。
翌日、犯人が捕まった。
「俺じゃない!」
――その人じゃない。
私には、分かっていた。
このままじゃ、いけない。胸の奥が痛む。
死因は、絞殺だったらしい。
指紋はなかったが、犯行に使ったであろう手袋に遼河さんの指紋がついていたらしかった。
「おい!ちゃんと、調べてくれよ」
「署で聞きます」
連れて行かれる。
駿くんの腕を強く抱きしめる。
「怖いな」
私を包んでくれる。
人を殺めた手……
どうして、こんなにも優しいのだろう。
階段の下。
懐かしい顔が目を閉じている。
残された二つの足跡。
誰のものか、分かってしまう。
いつまでも。
残って、消えない――。
いいなと思ったら応援しよう!
この物語を楽しんでいただけたら、そっと応援していただけると嬉しいです。いただいたチップは、物語を続けていく力に使わせていただきます。