【ショート】 触れなかった距離
―― short story ――
彼女は、その人の隣を歩いたことがあった。
少しだけ、距離をあけて。
「寒くない?」
そう聞かれて、
彼女は首を横に振った。
この人の上着を借りるほど、
近づいていい気がしなかった。
彼は、身分の高い人だった。
「きみは、ここにいるのが上手だね」
彼女は、笑った。
「ずっと、こうしていたいな」
彼女は、何も返さなかった。
それきり、
二人は別の場所へ行った。
同じ道を歩くことは、
もうなかった。
でも、
時々、思い出す。
あのときの、距離を。
それでも、後悔はしていない。
今日も、彼女は笑っている。
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