【ショート】 たんぽぽの綿毛
―― short story ―—
彼女はたんぽぽの綿毛のようだ。
目を離すと、どこかへ行く。
手を伸ばして、掴もうとしても、
すり抜ける。
何度でも。
気がつけば、今日も。
誰かに囲まれて、
咲いた花が綻ぶように笑っている。
――あの顔が、僕ひとりのものになればいいのに。
いつからだろう。
「せいー、帰ろう。」
放課後、宿題をしながら彼女を教室で待っていると、
いつもの調子でやってくる。
誰もいない教室は、静かでよかった。
手を止めて、
鞄に教科書とノートをしまう。
「宿題終わっちゃった?」
首を傾げ、聞かれる。
「だいたい」
席を立つと、彼女が僕の腕に抱きついてくる。
「一緒にやりたかった」
彼女の柔らかい温もりが腕から伝わる。
「……付き合うよ。」
微笑みが返ってくる。
「まこは、どこがいい?」
「ファミレスにしようよ。パフェ食べたい。」
僕は頷くと、真心の分のカバンも持つ。
夕日に背を向け教室を出た。
ファミレスへの帰り道。
二人で手を繋いで歩く。
ただ、歩いていても、すぐに声をかけられて、
真心は、また誰かの方へ行く。
振り返って、
僕にだけ、少し困った顔をする。
僕が頷くと、
すぐに笑う。
それは、また、すぐに別の人たち向けられ、
僕から離れていく。
夕方に差し掛かる頃には、
みんな宿題を終えていた。
女子たちはパフェに夢中だし、
男子たちは、明日のテストにげんなりしている。
時々、気に入らない目をして真心を見る奴がいる。
これが一番、我慢ならない。
少しして解散すると、
真心を自宅に送る。
これが僕の日常だった。
真心が自宅に入る前、
僕を見る。
頬が染まる。
扉が閉まるのを見届けて、僕は背を向ける。
道端の西洋たんぽぽ。
この綿毛が飛ばない方法は、あるのだろうか。
できることなら、
――あの笑顔のままで。
どこにも行けないように。
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