見出し画像

【ショート】 暖里亜―Daria―

―― short story ――

手先が器用な人は、魔法使いみたいだ。

高校の美術部に所属している私は、時折、残って、好きな絵を書いている。
反対側の教室から物音がして目をやると、彼は何やら作っていた。
確か、2-3組の袴田雪くん。
同じ美術部だから、知っていた。
私は窓から袴田くんが見える位置に、こっそりと画材と椅子を動かした。
絵に目を落としながら、教室の窓越しから手元を覗く。
……折り紙だ。
三角に、四角に、折り返す。
線と線が重なって、一つになる。
折り紙をめくるたび、カサッという音。

心が惹き込まれていく。

夢中になって見ていると、一羽の折り鶴が完成した。次は、大輪の花びらに、立体の月。
それから……

突然、手が止まる。

静寂が訪れると、現実に戻されるように時間が動き出す。

目があった。

とくん。

向こうは私を正面から捉えている。

言葉が出ない。

袴田くんは立ち上がると、作った折り紙と荷物を持ってこちらの教室に入ってきた。

私の後ろに立つと、少し目を丸くする。

「……やば」

私は見上げた姿勢で、袴田くんを凝視したまま動けないでいた。

「清水さんの絵、くるんだよね」

……くる?

ただの水彩画だった。昨日の夜、裏山の散策に父と出かけた時に見た景色だった。
山と湖畔と小さなボートと月、広がる夜空は快晴で星々が輝いていた。

そこに佇む、少女。

「……この女の子の隣、男の子描かないの?」

「……考えてなかった」

小さく答えると、綺麗に折られた三日月を、私の絵の月に当てる。

「大きさぴったりだね。……でも、満月にすればよかったな」

袴田くんが笑う。
胸が少し熱を持った。

近くの机を引いて、カバンから折り紙を出して、また折り始める。
今度は満月を作って、私にくれた。

「……他にも、作れる?」

「何がいい?」

「何か綺麗なもの」

袴田くんは少し考え込んだあと、
すぐに器用に折り始める。

黄色とオレンジを重ねて、緑の葉をハサミで切ってテープで止めた。

私に差し出しながら「はい」と渡す。

「はい、できた。綺麗だろ」

袴田くんが意味深げに笑う。

「暖里亜」

驚いて、また動けなくなる。

心臓が騒ぎ出す。

……やっぱり、魔法使いなんじゃなかろうか。

私は受け取ったそれを、
いつまでも、見つめていた。


いいなと思ったら応援しよう!

COBITo|物語を書く人 【高校野球怪談120%🌿】 この物語を楽しんでいただけたら、そっと応援していただけると嬉しいです。いただいたチップは、物語を続けていく力に使わせていただきます。