【ショート】 じゃない不倫
十年目の結婚記念日。
リョウには、行き先を伝えていない。
ホテルの予約時間が迫っていた。
いそいそとお気に入りのワンピースを引っ張り出し、着替える。
いつもより念入りにファンデを塗り、眉を整え、まつ毛を上げる。
口紅をひと塗りして、髪を梳かす。
温まったコテで毛先を巻くと、ふわりと髪を結った。
時計を横目で見ながら、急いで家を出ようとして、止まる。
化粧台の上の香水を手首に一振りして香りを吸い込むと、今度こそ玄関を出た。
マンションのエレベーターの扉が開く。
「……カナ。どこにいくんだ?」
「今日は結婚記念日だから」
リョウの腕を掴み、エレベーターから降ろす。
乗り込むと一階を押した。
「じゃあね」
何か言いたそうなリョウを置き去りにして、私は駅へと急ぐ。
駅前で、後ろから声が掛かった。
「カナ」
振り向くと、ワンピース姿のユリが立っていた。
差し出された左手の薬指に、私と同じ指輪が光る。
「十年目も遅刻だね、奥さん」
私はその手を取り、歩き出した。
田原にかさんの企画に参加しています🌿
今回のお題は『じゃない不倫』悪戦苦闘いたしました。
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