【ショート】 猫は見ていた
―― short story ―—
猫は見ていた。
その人は、ご主人様の婚約者だった。
――引っ掻いてやりたい。
邸宅の一室で、
その男はご主人様の義姉と体を寄せ合っている。
僕は窓辺からそれを見て、
汚いものを見たあとのように目を逸らした。
そして、二階の窓から、隣の部屋のバルコニーへ飛び移る。
窓を押すと、
ご主人様が書き物をしていた。
優しい物静かな黒い瞳が、
僕を捉える。
小さな唇が三日月を描いて、
筆を置いた。
手が広げられると、
僕は迷わず飛び込んだ。
そして、どうやって伝えようか考える。
優しい指先が僕の頭を撫でる。
気持ちが良くて、思わず、目を閉じてしまう。
――こうしている場合じゃない。
「ミャー」
鳴き声を上げると、
ご主人様は首を傾げた。
僕は、ご主人様の腕を抜け出すと、
扉をガリガリする真似をした。
そっと、立ち上がり扉を開けてくれるご主人様。
僕は物音を立てないように、
でも、素早く隣の部屋の前に立つ。
そして、ご主人様を見た。
隣の部屋は応接室だった。
ご主人様は執務室である場所で、
仕事をしていたのだ。
今日の来客はない――はずだった。
ご主人様と僕は、
10年以上の付き合いだ。
僕を信頼してくれているに決まってる。
僕の尻尾が、自然と応接室を指す。
少し驚いたようにしているご主人様。
それでも、
応接室のドアを開けようと、
前まで来る。
その時だった。
廊下の向こうから、
執事が走ってくる。
「……当主様。只今、そちらの部屋は片付けておりまして。
完了しましたら、ご報告に参ります。」
そう頭を下げる。
――最悪だ。こいつもグルなのか。
僕はご主人様の顔を見る。
「そうか。」
ご主人様はそれだけ言って、
扉に手をかけた。
――さすが、僕のご主人様。
僕は高揚する。
キィ、と音を立てて、
扉が開く。
まだ、外は明るい。
二人のおぞましい姿は、よく見えた。
そして、
ご主人様は、これまで見たことのない顔をした。
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