【ショート】 無類の読書好き
―― short story ―—
ハラリ
めくるページの音。
静寂の中に、その音だけが響き渡る。
活字を目で追っていくと、
素晴らしい世界が眼前に広がる。
座っている筈なのに、
弾むこころと鳴り止まぬ心臓の音がBGMのように、
私の身体中に響き渡る。
この至福の時間を、どれだけ過ごしただろうか。
ふと、気づくと、背中に温かい何かが触れる。
ただ、振り向く余裕はない。
物語は今なお進行中なのだ。
包まれるように大きな両腕が私の体を包む。
でも、本に意識を奪われて気にならなかった。
――もっと、早く、続きが知りたい。
耳がくすぐったくて、
本から片手を離すと、耳に手が伸びる。
ふと、手の甲に温かい吐息が触れた。
頭上から垂れ下がる黒髪が視界に入って、
活字から目を離す。
おでこからリップ音が響いた。
「やっと、こっちみた」
彼は頬を赤らめて笑う。
その顔に胸がとくんと鳴る。
でも、本の続きも気になって仕方ない。
「もう読むの?」
「少しだけ。今いいところだから。」
「俺よりも?」
「……比べないで。」
「じゃあ、俺を」
本を奪うような視線。
黙り込んで、ため息をつく。
「どこから読んで欲しい?」
「ここがいいな。」
指先が触れる。
まるで、インクを確かめるように。
ページの上に影が落ちて、
物語と現実の境界が、音もなく解けていく。
読むことは、
触れることと、
よく似ていると思った。
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