【ショート】 本棚の前で
―― short story ――
雨の音が、店の奥まで届いていた。
彼女は、本棚の前に立っている。
棚の向こうから、
視線を感じて、
顔を上げる。
彼だった。
「……お久しぶりです」
彼は、
少しだけ、丁寧な声だった。
彼は、
遠くの町へ行くという。
仕事だと、
それ以上は言わなかった。
「また、どこかで」
彼は、
そう言った。
彼女は、
笑ってうなずいた。
その夜、
彼女は二つセットの栞の一つを日記帳に挟んだ。
もう一つは、そっと、机にしまう。
別れは、
静かだった。
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