【ショート】 海辺に停まる黒い車
―― short story ―—
波の音に耳を澄ませ、
満点の星空を見上げる。
果てしなく続く闇と光。
夜の奥行きに、息を吐いた。
ふと、階下を見ると、
浜辺の手前の木の前に、黒い車の影が見えた。
中から男性らしき影が降りてくる。
思わず、ベランダから後ずさる。
六階だと分かっていても。
そのまま見つめていると、
男性は海に近づき、浜辺に腰掛けた。
関心が薄れ、また、星空を見上げる。
しばらくすると、肌寒くなり、
部屋に戻ろうと視線を落とした。
――男性がいない。
でも、車があった。
よく目を凝らすと、車のドアが開いている。
ドアのそばで、影が揺れている。
動きが、どこかおかしい。
……嘘でしょう。
目が離せない。
身をかがめて、柵の隙間から覗く。
大きな袋を引っ張り出すと、
男性は周囲を伺い、
何かを、引きずっている。
音は、波にかき消されていた。
そして、男性は膝まで海に入っていくと、
引っ張ってきた袋の中身を、
海に放り投げた。
――。
息が詰まる。
私は踵を返し、ベランダの窓を開けて中へ入る。
急いで上着を羽織ると、
ホテルの係の人のところへ行こうと、
戸に手をかけた。
ガチャっと音がして、
顔を上げると、
このホテルの制服を着た人が立っていた。
――あ。
警察を呼んでもらおうと、
口を開く。
ホテルの人は笑顔で、それを遮った。
「見ましたか。」
足が動かなかった。
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