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「私が欲しかったのって、これだったっけ?」ーー辿り着いた先で迷子になる理由

お風呂で、ふと

「私が欲しかったのって、これだったっけ」

湯気の向こうで、
その言葉が、ぽつんと浮かんだ。

仕事は、ちゃんとしてる。
暮らしも、まぁまぁ整ってる。
まわりから見たら、たぶん「それなりな人」。

なのに、湯船の中で、
ぜんぶが少しだけ、色褪せて見える。

お風呂だけじゃないかもしれない。

仕事で成果を上げられた帰り道、
「おめでとう」と言われながら
心のどこかが、しんとしてた夕方。

ずっと欲しかったものを買って、
箱を開けて、
「……で?」って思ってしまった休日。

がんばって、たどり着いて、
手に入れて。

そのはずなのに、
嬉しさが、思ってたより、ちょっと小さい。


こういうことって、誰かに話しにくい。

困ってる人から見たら、
贅沢な悩みに聞こえるんじゃないかと思うから。

「仕事があるだけいいじゃん」
「ちゃんとしてて羨ましい」

そう言われるのが目に見えてるから、
「まあ、順調だよ」って笑って、
夜のお風呂で、ひとりで考える。

「欲しかったものは、手に入れたはず。
なのに、なんで、こんなに虚しいんだろう」


その虚しさは、
贅沢でも、わがままでも、
感謝が足りないせいでも、ない。

「到着したのに迷子」っていう状態なのかもしれない。

道に迷う話なら、わかりやすい。
目的地に着けないんだから、困ってて当然。

でも、この迷子はちょっと違う。

地図のとおりに歩いて、
目的地に、ちゃんと着いた。

着いたのに、
「ここ、どこ?」って感覚だけが残ってる。

景色が、地図で見てたのと違う。

それが、この迷子のかたち。


心理学に、
アライバル・ファラシー(到着の錯覚)
という言葉がある。

「あそこに着いたら、幸せになれるはず」
という思い込みのこと。

「就職が決まったら」
「結婚したら」
「あのポジションに就いたら」
「貯金がこれくらいになったら」

人は、目的地に着いた瞬間の自分を想像して、
そこに「幸せ」を置いておく。

でも、実際に着いてみると、
想像してたほどの幸せは、そこに見当たらなくて。

達成の高揚感は、思ったより早く消える。
そして日常が、また始まる。


大事なのは、

着いても満たされないのは、
あなたの感じ方がおかしいからじゃない
、ということ。

人間の心が、もともとそういうつくりをしてる。

幸せを「到着地点」に置くと、
着いた瞬間から、それは日常になっていく。

だから、ちゃんと頑張って歩いてきた人ほど、
迷子になりやすいんだよ。

サボってきた人は、そもそも到着しないからね。


もうひとつ、思い出してほしいことがある。

いま立ってる場所への地図。

それ、いつのあなたが描いたものだった?

たぶん、10代とか、20代とか。

まだ何者でもなくて、
早く安心したくて、
「ちゃんとしなきゃ」って必死だった頃。

そしてその地図の目印は、
ぜんぶ自分で選んだようでいて、

親が安心する場所。
まわりが「いいね」って言う場所。
求人票や、世間の「普通」に書いてあった場所。

そういう、借りものの目印が、
けっこう混ざってたりする。

その地図を握りしめて、
十数年、一生懸命、歩いてきた。

歩いてる間に、
あなたは変わった。

見える景色も、
大事にしたいものも、
疲れ方も、変わった。

でも、地図だけが、昔のまま。

だから、着いたとき、こうなる。

地図が間違ってたんじゃない。
地図を描いたときのあなたと、
いまのあなたが、違うだけ。

20歳のあなたは、
ここに着きたかった。
それは、本当のことだった。

ただ、そこから歳を重ねた今のあなたは、
もう別の何かを見はじめてる。

その「ずれ」が、
虚しさという形で、お風呂に浮かんでくる。


山で遭難したとき、
いちばんやってはいけないことを、知ってる?

慌てて、動き回ること。

「ここじゃない」と焦って歩き回るほど、
体力を失って、現在地がわからなくなっていく。

遭難したときの鉄則は、逆。

むやみに動かない。
まず、現在地を確かめる。

「到着したのに迷子」も、同じだと思う。

虚しさに気づいた夜、
人は、慌てて動きたくなる。

転職サイトに登録してみる。
資格の資料請求をしてみる。
「やりたいこと の 見つけ方」で検索する。
新しい目標で、この虚しさを埋めようとする。

でもそれ、
古い地図の続きに、新しい目的地を描き足してるだけ
だったりする。

「あそこに着いたら、今度こそ」って。

それだと、また同じ場所に着く。
到着して、また迷子になる。

だから、順番が逆なんだよ。

新しい目的地を探すより、先に。

いまの自分の現在地を、確かめること。


現在地の確認って、
かっこいいワークとかじゃなくて、
すごく地味なことでいい。

たとえば、お風呂で
「私が欲しかったのって、これだったっけ」
が浮かんだ夜に、

その問いを、消そうとしないで、
ひとつだけ、聞き返してみる。

「最近、
ちょっとでも "いいな" って思った瞬間、あったっけ」

大きな答えじゃなくていい。

日曜の朝の、コーヒーの匂い。
仕事帰りに見た、変な形の雲。
誰にも邪魔されずに本を読めた、20分。

「こんな小さいこと?」って思うようなものが、
実は、いまのあなたの地図の、最初の目印になるから。

昔の地図は、
「安心できる場所」を目指して描かれてたのかもしれない。

いまのあなたの地図は、
「ちゃんと感じられる瞬間」から、描き直されていく。

答えが出ない夜は、
「わからない」のままで、お風呂を出ていい。

迷子のとき、
現在地の確認に、時間がかかる。

それは停滞じゃなくて、
自分の位置を知るために
いちばん正しい過ごし方なんじゃないかな。


さいごに


「私が欲しかったのって、これで良かったのかな」

この問いが浮かぶ夜は、しんどい。

でも、この問いは、
心が壊れかけてるサインじゃなくて、

借りものの目印じゃなく、
自分の目印で歩きたくなってきた

というサインでもあるんだと思う。

ちゃんと歩いてきた人にしか、
この迷子の状態は、訪れない。

だから、湯船の中でこの問いに出会ったら、
慌てて動き回らなくて、大丈夫。

まずは、現在地から。

ゆっくりでいいから。


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ここまで読んでいただき、ありがとうございます^^

少しでも「これ、私のことかも」と感じてもらえたなら、
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今夜、もしお風呂で「これで良いのかな」が浮かんだら、
それは迷子のはじまりじゃなくて、
自分の地図を描き直しはじめた合図なのかもしれません。

カウンセラーユナ


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