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日記 形見になる前に

父からEOS KISS X9を無期限で貸してもらった。

もう「貸してもらった」というより、「もらった」に近い。

このまま返さなければ、いつか形見になってしまうかもしれない。

……縁起でもない話だ。

そういえば、祖父も祖母も、亡くなったときには遺産と呼べるようなものを、本当に何ひとつ残していなかった。

祖母が先に亡くなり、その後、祖父が笑いながら言っていた。

「ほんまに何も残してない。」

ほんの少しくらいはあると思っていたのだろう。

それが見事に何もなかったらしい。

そんな祖父もまた、ほとんど何も残さずに旅立った。

でも、不思議と寂しくはなかった。

子どもの頃は会うたびにお小遣いをくれた。

私の息子たちにも、誕生日や入学祝いを欠かさなかった。

生きているうちに、ちゃんと使ってくれていたのだ。

自分で働いて稼いだお金なのだから、自分や家族のために使ってくれた方が、私は嬉しい。

だから「何も残っていない」と聞いて、どこか安心した。

形見として残ったのは、釣りで使っていたヘッドライトだった。

もうゴムは伸びきってビヨビヨ。

釣りをしている姿でさえ見た記憶がないのに、母いわく、晩年は夜中にトイレへ行くときにつけていたらしい。

なんとも言えないエピソードと一緒に、「これ、持っていく?」と半ば押しつけられるようにもらった。

今でも引き出しのどこかに入っている。

きっと価値なんてない。

でも、不思議と捨てる気にはならない。

父から借りたEOS KISS X9も、いつか誰かに譲る日が来るのだろう。

でも、できればずっと先の話がいい。

このカメラは、形見なんかにならなくていい。

父が元気なうちに、「この写真、よく撮れたな」と一緒に笑えたら、それが一番の宝物だと思う。

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