リアルホラーショート「赤いシール🔴」
✨️おすすめの読み方
夜のベッドで読む!
⚠この話はフィクションです。
この話は実際の事件などとは全く関係ありません。
こんにちは。ホラー二作目です。
一日にホラーを2作も…
暑さをこのホラーで冷やしてくださいね…
赤いシール🔴
一人暮らしを始めて3年になる、オートロック付きのマンション。 その日、残業を終えて深夜に帰宅した私は、少し妙な違和感を覚えた。
鍵を定位置に戻そうと、リビングのチェストを開けたときだ。 私はいつも、部屋の予備鍵を「一番下の引き出し」の奥に入れている。しかしその日はなぜか、予備鍵が「真ん中の一段上の引き出し」にポツンと置かれていた。
「あれ……? 間違えて上に入れたっけな」
その時はただ、自分の物忘れだと思って引き出しを閉めた。それがすべての始まりだったのに。
それから一週間後の、今日の夜。 時刻は深夜1時前。相変わらず仕事で遅くなり、疲れた足取りでマンションのエントランスをくぐった。
自分の部屋の前に行き、ふとドアの横にある郵便ポストに目が留まる。 暗がりのなか、ポストの隅に、小さな「赤い丸シール」が貼られていた。
「なんだこれ……」
爪で剥がそうとしたが、粘着力を失ったそれはベタベタと指に残るだけだった。ふと、以前テレビのニュースで見た『空き巣のマーキング暗号』の話が頭をよぎる。赤いシールは確か、住人の在宅時間や「狙い目」を意味するマークだったか。
「まさかね。考えすぎか」
気味が悪いと思いながらも、私は部屋に入り、内鍵を閉め、ドアチェーンをしっかりと掛けた。
パジャマに着替え、ベッドに寝転んでスマホで動画を見始める。イヤホンから流れる他愛のない音声に、今日の疲れが少しずつ溶けていくような気がした。
時刻は、深夜1時15分。
突然、イヤホンの隙間を縫って、妙な音が聞こえた。
ガチャ…… ガチャ、ガチャ。
動画の音ではない。完全に、現実の音だ。 私は息を止め、片方のイヤホンを耳から外した。
ガチャガチャガチャ、ガチャッ。
間違いない。我が家の玄関のドアノブが、外から激しく回されている。
心臓がドクンと跳ね上がった。泥棒? それとも酔っ払いが部屋を間違えたのか? 私はベッドから音を立てないように抜け出し、抜き足差し足で冷たいフローリングを踏んで玄関へ向かった。
玄関の三和土(たたき)に立ち、息を殺す。 ドアの向こうから、荒い鼻息のようなものが聞こえる。
私は意を決して、ドアの覗き穴(ドアスコープ)にそっと目を近づけた。
外の廊下の常夜灯の下。 そこに立っていたのは、フードを深く被った男だった。
男は、じっとドアノブを見つめている。 次の瞬間、男の顔がぐいっと跳ね上がり、覗き穴の真正面に迫った。
血走った両目と、完全に目が合った。 男は私が覗いていることに気づいたのだ。
「ひっ……!」
声にならない悲鳴が漏れた瞬間、男の行動が一変した。
ドンドンドンドンドンドンドン!!!
狂ったようにドアを叩き、激しく体当たりをしてくる。金属のドアが悲鳴を上げるような凄まじい音。恐怖で足がすくみ、一歩も動けない。
その時だった。
カチャリ。
心臓が凍りついた。 男の手元で、我が家の鍵が、完全に回る音がした。
なぜ? 鍵は閉めていたはずなのに。
ゆっくりと、ドアが外側に開いていく。 だが、完全に開くことはなかった。ガツン!という鈍い衝撃音とともに、ドアは数センチの隙間を残して止まった。
ドアチェーンだ。 金属の細いチェーンだけが、今、私とあの狂人を隔てている。
「おい、開けろよ。開けろよぉ!!」
隙間から、男の濁った声と、異様な体臭が流れ込んでくる。男は隙間に無理やり手を突っ込み、チェーンを外そうと指をくねらせている。
なぜ鍵が開いた? その瞬間、脳裏に一週間前の記憶がフラッシュバックした。
『一段上の引き出しにあった予備鍵』
……あいつは、すでに一度、この部屋に入っていたんだ。 私が仕事でいない間に侵入し、予備鍵を見つけ、それを型取りしてコピーするために持ち出し、戻す時に引き出しの段を間違えたんだ。
すべてがつながった。あの赤いシールは「鍵の複製完了」の合図だったんだ。
「うあああああ!!」
男はもう時間がないと悟ったのか、なりふり構わずドアに全体重をかけて体当たりを始めた。ミシミシと音を立てるドアチェーン。これがちぎれたら、終わる。
警察、警察を呼ばなきゃ……!
しかし、ハッとして自分の手を見る。 スマホはベッドの上に置いてきたままだ。
取りに戻るには、玄関から離れなければならない。 もし私がここを離れて、もう一度強い体当たりをされたら、このチェーンはひとたまりもないだろう。
ドアの隙間から、男のギラついた目が、私をじっと見つめている。 男の指が、チェーンの隙間から私の服を掴もうと、狂ったように泳いでいる。
私は、ここから動けない。
「……ッ、警察!! だれか!!」
喉がちぎれるほどの声を張り上げるが、声は裏返り、深夜のコンクリートに吸い込まれて消える。
男はもう完全に理性を失っていた。隙間から差し込まれた男の、爪の間に泥の詰まった指が、私のパジャマの胸元を掴もうと激しくもがいている。
ガン!!!
男が渾身の力でドアに体当たりをした。 金属が歪む、嫌な音が響く。ドア枠に打ち付けられたビスが、悲鳴を上げてミリ単位で浮き上がるのが見えた。
(あ、切れる)
本能がそう告げた。スマホを取りに戻る時間なんて、もう一秒もない。
次の瞬間、火花が散るような高い金属音が狭い玄関に炸裂した。 ちぎれたチェーンの破片が、私の頬をかすめて後ろへ飛んでいく。
ゆっくりと、信じられないほど静かに、ドアが大きく開いた。
外の廊下の冷たい空気が、一気に部屋の中に流れ込んでくる。 目の前に立つ男の、異様な汗の臭いと、安物のタバコの臭い。
「……あ」
声にならなかった。 男の右肩がぐっと後ろに引かれる。
次の瞬間、私の胸元に強烈な衝撃が走った。 肺の中の空気がすべて力任せに押し出され、私は無様に後ろへ吹っ飛んだ。
背中から冷たいフローリングに激突し、あまりの衝撃に頭がクラクラとする。
「げほっ、ごほっ……!」
むせ返りながら、涙で歪む視界を必死に開く。
目の前に、男の泥だらけのスニーカーが迫っていた。 見上げると、男は私を見下ろし、狂ったような笑みを浮かべている。
その右手には、 キッチンから持ってきた、我が家の、あの使い慣れた三徳包丁が握られていた。
男が静かに、それを頭上へと振りかざす。 蛍光灯の光を反射して、刃先が、鋭くギラリと光った。
