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ソファーに深く根を下ろした、ある夏の土曜日

​3連休初日の7月18日土曜日の朝。

7:00に目は覚めたが、スマホゲームやSNSのスクロールでだらだらとベッドで寝転んでいた。そのうちにまた眠っていたらしく、気づけば9時までもう少し。

曇り空がベールのように空気を閉じ込めており、窓から入る風すら生温かい。扇風機も生ぬるさを攪拌するだけで、じわりと汗が滲んだ。限界だ。ベッドからそっと足を下ろして立ち上がった瞬間、思い出した。

「あっ!今日の昼に次女の彼氏がサザエを食べに来るんだった!ヤバい」

​次女も三女も休日なのに既に起きていた。三女はテレビでアニメを見てだらけていたが、次女は張り切って洗濯をしてくれている。私も何とか居間の体裁を整えるべく片付け始め、娘たちに「自分のものは部屋に持って行って!」とハッパをかけた。散らかる原因は彼女らの脱いだ洋服や、テーブルの隅に寄せてある化粧品等が目立つからだ。

しかし、次女に遮られた。

「ママはいいから、私が見せて恥ずかしくない程度に片付けるからいい!」

と言われて、「そっか」と素直にソファーに根を下ろした。時間に追われ、片付け始めた様子を私は察して、掃除機がけだけ申し出た。

​我が家に次女の彼氏が来るのは今回で2回目だ。

彼が到着し、リビングに入ったとき、私は軽く「オッスー!」と声をかけた。よそよそしく「こんにちは」なんて言ったら、私は「こんにちは」と上品でいないといけなくなる。Tシャツにダブルガーゼのルームパンツで、ソファーにだらしなく座って出迎えた。すぐにリラックスしてほしかったからだ。彼も遠慮がちな声量で「オッス」と返してくれた。

​次女は彼氏にスープやオムレツを食べるか聞いて温めた。昨晩の我が家の夕食の残りである旨は伝えてある。それと同時にサザエを焼く次女。サザエは夫の友人から貰ったもので、魚港に勤めているのでくれる量が多い。次女は彼の狭いアパートで焼くのは道具も少なくやりづらいと、今回家に招いたのだ。

次女が調理の間、彼の居心地が悪くならないように当たり障りのない会話で盛り上げる。映画やドラマの話、サザエの経緯など。

​次女が用意したランチは、レンズ豆のスープ、ジャガイモのオムレツ、リュスティック、サザエのアヒージョ風つぼ焼き。どれもおいしいと食べてくれて、私も嬉しかった。

実は昨晩、ジャガイモのオムレツは夫と三女に不人気で3/4も余っていた。「もう誰も食べないのであれば、私が一人で地道に消費するしかないか…」と思っていたところ、次女と彼氏がおいしいとまるっと食べてくれて助かったのと、一生懸命作った、割と手間の掛かる料理だったので、おいしく食べてくれたことが本当にありがたかった。

​2人は彼の誕生日を祝うんだと出かけて行った。ショッピングモールに行ってから居酒屋さんのコースを食べに行くらしい。家を出るときに私と三女で「誕生日おめでとう!楽しんできてね」と送り出した。

​少しの緊張と気づかいの空気は、いつものリビングに戻る。静かになりすぎて、空気がしらけないようにつけていたテレビのチャンネルは、また朝のアニメの続きに変わった。私は洗いかごに積まれた食器を片付けて、またソファーに根を下ろす。

​昨晩、三女から良い提案があった。

岩城の道の駅で開催される花火大会の協賛チケットを駐車場許可証付きでもらって来たから、みんなで行こうと。だから夫と3人で行ことになっていた。おにぎりくらい作ろうかと思っていたがやめた。ソファーに下ろした根が深すぎた。

​そうこうしているうちに、出掛けていた夫が帰宅して支度する。夫はクーラーバッグに保冷剤とビール。私は運転手だが、野菜室に隠し持っていたノンアルコールビールを夫に手渡してニヤリと笑った。途中でスーパーに寄り、お惣菜コーナーから生春巻きやイカの唐揚げなどのおつまみと、三女用のジュースなど買い足し会場へ向かった。

曇り空の夕暮れはちょっと味気ない気もしたが、駐車場に着くと会場に向かう他のお客さんの楽しそうな雰囲気や浴衣姿の女性、家族連れなどの後を歩き、思っていたより規模が大きそうだなと期待値が上がった。

​席を確保したが大誤算。石畳の階段が協賛席で、尻が痛い。100均の折りたたみレジャークッションの一つも持ってくれば良かった。体重のかけ方を変えて凌ぐ。始まるまでの間に屋台で牛タン串やメンチカツなど買い足し、花火が始まった。

​私が最も感動したのは水上スターマイン。斜めに向けて海の水面へ打ち上げられた花火は、水面ぎりぎりで大きく広がる。客席から近いため見た目の迫力もさることながら、腹の底まで響く音にも圧倒された。胸のあたりにドーンと響く。水面に映る色とりどりの光も何とも美しく、今までいろいろな花火を見てきたが、こんな花火は初めてだった。帰りの混雑や渋滞も想像したが、最後まで観覧した。

​腹が空いたと言う夫を途中にあるラーメン屋に降ろし、家に着いた私は、冷蔵庫からビールとチーズを出した。三女にもチーズを渡し、ビールのプルタブを開ける。

​三女が四月に入社した会社からもらってきた花火のチケットで、家族みんなが楽しい時間を過ごせた。子どもはこうやって少しずつ大人になっていくんだな。私はビールをひと口飲み、今日何度目かのソファーに、また静かに根を下ろした。

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