余白ある人
車で信号待ちをしているとき、ふと、歩道を歩く二十代半ばほどの女性が目に留まった。
その後ろから、四、五人の中学生が自転車でやってくる。彼らは女性を縫うように追い抜いていった。女性は驚いたように立ち止まる。
中学生たちは、その女性に対して嫌がらせをしようという訳ではないというの見ていて分かったが、それにしても周りが見えていない乱暴な運転に、見ているこちらも腹立たしい気持ちになった。
追い抜かれた女性は、立ち止まって中学生たちの背中を見つめていた。
どんな怒りの表情を浮かべているのか。そう思って彼女の横顔を眺めたとき、意外なものを見た。
彼女は、ふっと笑ったのだ。
そこには怒りも苛立ちもなかった。 まるで「少年たちは元気でいいな」とでも言いたげな、穏やかで温かい微笑み。
彼女はそのまま、少しうつむき加減になりながら、またゆっくりと歩き出した。 口元には、まだかすかに微笑みが残っている。
この人は、心に本当の「余白」を持っている人なのだと思った。
信号が青に変わり、車を出す。
彼女が見せたあの微笑みが、しばらく頭から離れなかった。
自分は、あの人には全然追いつけない。
あの人の域に行くまでには、まだまだ相当な時間を要するだろう。
それでも少しずつ。
少しずつでいいから、多少のことでも動じないような、心の余白を作り続けていこう。
