見出し画像

短編【下町の歌姫-マルゴ・フェイユ】  -運命の星に導かれー最終章

ヘッダー画像はKei様の作品から使わせて頂きました。


最終章大戦後のマルゴ

1944年8月19日、ノルマンディー上陸作戦に続く連合国軍の接近に合わせてパリでレジスタンスが蜂起して警察本部や政府の建物を制圧した。

同月25日、パリはドイツ占領から正式に解放され、翌26日にはド=ゴール将軍がシャンゼリゼ通りで凱旋パレードを行った。

1945年、マルゴは50歳になっていた。
戦後の街中は、物資も乏しく市民は苦しい生活を余儀なくされていた。そのような中、大人だけでなく戦争犠牲者の中には親を失った子供たちも多かった。

ドイツ軍は映画「禁じられた遊び」のワンシーンにも有ったように爆撃から逃れようとしている人々に機銃掃射で攻撃を掛けたのだ。孤児は、様々な形で施設や修道院、場合に寄っては労働力として利用された。

又、ドイツの兵士と娼婦の間に出来て置き去りにされた子も居た。子供に罪は無いのだが大人はそうは思わない。
憎きドイツの血がはいった子供故に差別も受けたであろう。

過酷な施設から逃げ出して下水道や廃墟のような建物や階段の下で暮らして居たのだろうか。マルゴは、街中で見掛ける孤児たちの力になりたかった。

彼らを保護するには建物が必要だ。ベッドも毛布も食事するテーブルも居る。お金が欲しい。溜め息を付くマルゴにアンナは、

「マルゴ、お金の心配は要らないよ。私には、遺産が有るんだから、ニコラに話せば判ってくれるよ」

大戦では、ニコラもラファエルも従軍したが、軽傷で帰って来たと書いた手紙が届いていた。

マルゴは、ルカの帰国を待って居た。

終戦の翌年の春、下町の小学校の近くに手頃な建物が見つかり借りる事が出来た。アンナの名前「Les enfants d'Anna(アンナの子供たち)」を施設名にした。

資金はアンナに入った遺産が充てられて設備も整った。
マルゴは、孤児たちを引き取りアンナは活き活きと世話をはじめた。

役所にも届けて、修学児童を学校に入学させた。
朝の登校には小ざっぱりした身なりの子供たちをマルゴが送って行った。
下校時はアンナが迎えに行った。

施設としては小規模だが、温かい家庭的な雰囲気の中で子供たちは屈託なく暮らし始めた。

その日は、日曜日だった。子供達のためにガレット作りをしている所に靴音がして調理場に入って来た者がいた。

「マルゴ、約束通りに帰ったよ」と声を掛けられ振り向くと直ぐ後ろに男が立っていた。
「ルカ❗」

マルゴとルカの再会(少し若い過ぎる?)

「ルカなのね。遅いじゃない」と言うマルゴに

「仕方ないよ、アルジェの戦線に派兵されていたものでね。漸く帰国できた。此れでもシャワーを浴びて身だしなみを整えて一番に来たんだから」

「ルカ、本当にルカなのね。心配したわ。」
マルゴは粉だらけの手でルカに抱きついた。
「マルゴ、逢いたかった」と囁きながらルカはマルゴを抱きしめた。

「まあ~ルカ、私ったら...ごめんなさい」
「今、ガレットを作っている所なの。貴方、粉だらけだわ」

「マルゴは此処で、孤児の世話をしてるってサフィーに聞いたよ。歌の方はどうなの。歌ってる?

「勿論、歌っているわ。私のカフェでね」
「大きな処からは御呼びが無いけれど小口で少しは...」
「子供たちの世話も有るしね」

「だけど、資金は大丈夫なのかな。必要なら父から聞いている重要な事がある。確認してみるよ」

その夜、子供たちの就寝時間が過ぎてからカフェ[黒猫]に馴染み客にマルゴ、ラウラ、ルカと店の仕切りをしているサフィーもアルバイトのジュールも加えて、ルカの帰国を祝う会が開かれた。

アンナは、子供たちの為に施設に残った。

乾杯の後、マルゴは唄い始めた。
充実した日々に悔いのない伸び伸びとした歌声が店の空気に交じって風のように流れる。

唄うマルゴ

すると何処からかアコーディオンのメロディーが流れて来た。
「まさか、ジャン?」と訝しむマルゴ。

扉を開けて入って来た男。
「ジャンの代わりにアコーディオン弾きのピエールだ。
今夜の会に寄せて貰えるかな」

「まあ、ジャンとは暫く会ってないのよ」
「親父は、あの時の傷が悪化してさ亡くなった。
もう一度、マルゴに逢いたかったって言ってたよ」

其処へ、のっそりとギター片手に男が。
「姉さん、久し振りだ。俺も従軍したから帰国組だ」

「えっ、誰よ? 髭なんか生やして...」

「あっ、俺の事忘れた? チビのアンドレって言われたな~。
ギター弾きのフランクの息子」

「あら~何時の間にそんなに変わったの。
嬉しいわね~じゃ、今夜は唄いまくるわよ」

「ラウラは、踊りで花を添えてね」
「任せておいて」とカスタネットを鳴らすラウラ。

「皆さんも御一緒に
今夜は、陽気にやりましょう」


賑やかな夜は、いつの間にか更けて一人ずつ店を後にして行った。

ラウラも、片付けを終わったサフィーとジュールも居なくなり残ったのはマルゴとルカの二人。

「良いわね~今日は、思いっきり歌ったわ」とマルゴ。

「やはり、君の唄は素晴らしい。今、此処に父が居たらどう言うだろうな」

「そうだ、父は君の先を見ていたようだ。自分で運を切り開く星の導きが有ることを判っていたのか、君が歌で稼ぎ出したものは、マルゴ・フェイユ名義で投資に回して増やしていたんだ。

遺言書にも、其れはマルゴ・フェイユのものだと明記してあった。
君の児童施設運営の資金は充分にある」

「何時でも、言ってくれ。直ぐに君に渡すから」とルカの言葉。

「そう、エンリケは何処までも死して尚、私に尽くしてくれるのね。
私は幸せな人生を送れる女だわ」

「ルカ、有り難う。安心して子供たちの成長を見守れるわ」


第二次世界大戦前までの華々しいステージを観せていたマルゴは姿を消した。

然し、50歳を超えても尚、美しく輝きは消えることなく、孤児になった子供たちの成長を見守り、歌を唄い、パリの街の復興に寄り添うように日々を過ごすマルゴ。

「歌はね、歌なら何処でも唄えるわ」と、何処までも無欲なマルゴだった。

「君は、永遠の下町の歌姫。
掛け替えのない人だと父は言うだろう」とルカが応える。

私は、パリの街角に根を張ったマロニエの樹。

下町で産まれ育った少女マルゴ・フェイユの半生。
貴婦人への夢は何時の間にか消え去り華やかなステージから人生の変遷は運命の星の流れる儘に風の記憶となり、夜空の星たちは静かに巡る

1946年春、マルゴは次のステージを歩き始めた。 

Fin 完結

フランスでも種類は違いますが、春には桜桃の花が咲きます。
Kei様の河津桜で、この物語の最後を飾らせて頂きました。<m(__)m>


🌹御挨拶🌹

当初、十話で完結の積りでおりましたが、編集、訂正、加筆により十五話となりました。まさかの、40000文字に迫る文字数に驚きました。

今回の作品のヘッダー画像、文中の挿入画像に使わせて頂きましたKei様の作品の数々、快く御了承下さり感謝の至りで御座います。

皆様には、最後まで御目通し頂きまして有り難う御座いました。

一先ず、今回を最後に暫くnoteを離れます。
再開予定は立てておりません。

何時もリアクション下さいました方々様、御目通し下さいました方々様、
心より御礼申し上げます。有り難う御座いました[感謝]<m(__)m>