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三つのお題から【白狐、龍、鹿】

あるところの森の奥深くに、真っ白な毛並みの狐が住んでおりました。
その白狐は、百年もの間、ただ一人の人を待ち続けていたのです。

白狐は、その昔、良家に産まれて何不自由なく育った人間の娘でした。
娘は年頃になると、家柄と気立ての良さと美しさ故に良縁に恵まれ資産家に嫁ぎ幸せな日々を送っておりました。

ある時、戦争が始まり豊かな生活は全て焼き尽くされ一人生き残った娘は、途方に暮れて実家への道を歩き始めました。

然し、帰り着いたむ場所に屋敷はなく、裏庭に祀ってあった稲荷の祠だけが無傷の状態で残って居りました。

娘が祠の周りを掃き清め、手を合わせて祈っていると、
背後に人の気配を感じました。

振り返ると一人の若者が立っています。
「貴女の家族は、爆撃を受けた時に亡くなられました。
近くに居た私は奇跡的に難を逃れました」と言いました。

娘は悲しみに暮れながらも、若者の言葉に耳を傾けました。
若者は続けて「私の住まいは森の奥に有ります。
普段、私は留守にしていますから、貴女に住んでもらえると良いのだが」と言います。
娘は不思議と恐れる事なく若者に付いて森へ向いました。

そこには隠者が住まいのような小奇麗な家があり、寝床も調理場も整っていました。 娘はその好意をありがたく受け入れました。

若者は、時々食べ物を持って訪れ暫し話をして帰ります。
目元涼しく厳つさのない好男子でした。
やがて娘は、若者に心を寄せるようになりました。

娘は若者が何者か気になり聞いてみましたが「貴女は知らなくて良いのです」と言うばかり。

ある日、娘は若者が帰って行く後ろを忍び足で追いました。
森の奥深くに分け入る若者の姿がふっと消えると同時に美しい銀狐が現れたのです。

驚いた娘の息遣いを聞き逃さずに振り返った銀狐は「アァ~、追って来られたのですね」と、静かに言い
「私の真の姿を見られては、貴女の元へは戻れません。別れの時です」と言葉を重ねました。

娘は涙ながらに「嫌です。例え狐の化身でも別れたくありません」と言いました。

銀狐は哀し気に目を伏せ「私も同じ気持ちだが、人と獣の間には夫々の掟が有るのです。私は百年後、人として生まれ変わります。 貴女は、その時まで待てますか」

「はい、御待ちしております」

「その間、貴女は狐として生きて行かねばなりません。其れでも良いのですか。」

「はい、其れでも待ちます。」
「でも、貴方が人になった時、私は...」

「その時にならないと判りません」と銀狐は言いながら娘を見つめ、 くるりと身を翻すひるがえすと、光の粒となって消えました。
後には、雪のように白い美しい毛並みの狐が残されておりました。


――それから百年。

あの日から100年、白狐になった娘は若者を待ちながら何度も生れ変わって生きてきました。
然し、約束の100年が経ったのに若者はどうしたのでしょう。

森の奥深く、更に深く進むと大きな湖が有りました。
龍の眠る湖に白狐は向かっておりました。

龍は千年、生きると眠りに就き時間をかけて古い身体の中で再生するのです。

満月の夜に首の部分から背中に割れ目が入り少しずつ広がり先ずは頭が抜けます。其の後、胴体も鱗も少しずつ抜けて翌日の朝には完全に新しい龍に産まれ変わり、更に湖の底で3日間眠り続けます。

龍神の再生と白狐

白狐が湖に着いた時は満月の夜でした。
湖の岸で龍の生まれ変わりを静かに見守りました。
新たに生まれ変わった龍は湖に潜り眠り始めました。
龍が息をするたびに鼻から水泡がぷくぷくと上がって来ます。
そして、三日目の夜、急に湖面がざわめき、龍が頭を持ち上げました。

白狐を見ると「娘よ、どうした。未だ若者は来ぬようだな」とくぐもった声で言いました。

白狐は涙を零しながら
「はい、竜神さま。既に百年と百日経ちました。
でも、あの方は戻って来られません」

「娘よ実は、銀狐は戻って来ておるのだ。然し、村人が仕掛けた罠に掛かり怪我をしておる。今は、瀕死の状態じゃ」

「まあ、どうしましょう。」と白狐が狼狽えている所に一陣の風が吹いて突然、白銀の鹿が現れました。

どうやら、村人たちが噂していた[夜空を走る鹿]のようです。

鹿は立ち止まると白狐に銀色の息を吐きかけました。
すると白狐は娘の姿に戻りました。

「急ぐのです。銀狐は山桜の古木の根本に隠れています」と言って自らの角を石に打ち付け角を少し折りました。

「さぁ、此れを持って行きなさい。罠を外す為に使うのです」と言って去って行きました。

龍神も自らの抜け殻の一部を娘に授け「此れを銀狐に掛けてやるのだ」
「さぁ、朝が来る前に銀狐と戻って来るのだ。でないと、白狐に戻り村人に気づかれて囚われてしまう」

娘は、竜神の抜け殻と鹿の角を持って星灯りを頼りに大急ぎで銀狐が隠れている山桜を目指して走りだしました。

漸く、大きな山桜に辿り着くと銀狐が息も絶え絶えに目をつむり苦しそうです。
娘は鹿の角で罠に触れ外すことが出来ました。

傷から滲みだす血は命を削って行くようです。
娘は急いで龍神の抜け殻で銀狐を覆いました。

夜明けまでの時間が迫っています。
娘は、銀狐を運ぶ事が出来るのでしょうか。

と、その時、龍神の抜け殻の中で銀狐が動き始めたのです。

そして、抜け殻を脱ぎ捨てると懐かしい若者の姿となって現れました。

「貴女の御蔭で怪我も治り、人間になれました」
「龍神様に御礼を言いに行きましょう」

人間になっても元は百年生きた銀狐、妖術を使い瞬く間に竜神の湖に娘と共に戻りました。

銀狐と白狐

――その後、二人はどうなったのでしょう。
人間として暮らそうとしたものの、百年の世の移り変わりの厳しさや人の世に絶えぬ戦いや醜さを見るにつけ憂うこと多く、娘は白狐に戻り、若者も銀狐の姿になり森の奥深く、 人知れぬ静かな場所で寄り添い静かに生きているようです。(おしまい)


片桐みかん様、お題企画の参加させて頂きます。
宜しく御願いましす。

#3つのお題に空想のひらめきを