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創作SS:失われた卵形を求めて

表紙画像はGeminiにて生成。
画像のプロンプトは「このSSにあう水彩画を描いて」


Geminiの創作SSです。


失われた卵形を求めて


それは、日曜日の朝の
あまりにも完璧な沈黙の中で始まった。

私は台所で立ち尽くしていた。

手の中にあるのは、昨日奮発して買った
高級エシレバターと、最高級の小麦粉。

そして、目の前のボウルで無惨に砕け散った「それ」の残骸である。

「ああ、まただ……。
 またしても、私は『完璧な卵形)』を失ってしまった」


かつて、幼少期の私が祖母の家で目にしたあの卵。

それは単なる鶏卵ではなかった。
数学的な黄金比を具現化したような
滑らかで、どこにも淀みのない曲線。

光を柔らかく撥ねのける、あの中途半端な白。

あの形状こそが、世界の秩序そのものだった。


私はあの完璧な曲線を取り戻すべく
スーパーで「こだわり卵」を買い占めては
一つずつ慎重に割る儀式を繰り返している。

しかし、殻を割った瞬間に現れるのは
いつも期待を裏切るだらしない黄身と
締まりのない白身ばかりだ。


「マドレーヌを焼こう」

私はふと思い立ち、割れた卵液に砂糖を投げ込んだ。

プルーストという男がマドレーヌを
紅茶に浸して過去を思い出したように
私もまた、このドロドロとした混合物の中に
失われた記憶の断片を探そうとしたのだ。

オーブンから漂う甘い香りが、鼻腔をくすぐる。
かつて、日曜のミサの帰りに嗅いだ
あの午後の退屈と幸福が混ざり合った匂い。
私は焼き上がったマドレーヌを一つ手に取り、じっと見つめた。

「……これだ」

マドレーヌの裏側。

ふっくらと盛り上がった、その絶妙な膨らみ。

それは紛れもなく、私が追い求めていた卵形体のプロファイルではないか。

私は気づいた。

失われたものは、卵そのものの中にあったのではない。
「卵が割れ、形を失い、別の何かに
 生まれ変わる瞬間の、その予感」
の中にこそ私の求めていた真理は隠されていたのだ。

私はマドレーヌを口に運んだ。

サクッとした食感とともに
完璧な曲線は私の喉を通り
胃の中へと消えていく。

形を失うことで
それは永遠に私の血肉となった。


窓の外では、春の光が庭の木々を照らしている。

私はもう、スーパーの卵売り場で不審者のように
パックを凝視することはないだろう。


おしまい。



山根あきらさんのお題でした。

最後まで記事を読んで頂き、ありがとうございました🙇‍♂️

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