いいなあ、あのお兄さん ― ケジミン家観察日記⑤ ―
毎朝、戦争がある。
「長袖着て」
「やだ」
以上。
うちの息子(小1・ADHD)は、冬でも半袖半ズボンで学校に行こうとする。
感覚過敏の逆、というやつらしい。
とにかく、締め付けが嫌いだ。
タグも嫌い。厚みも嫌い。
この子にとって長袖は、刑罰に近いのかもしれない。
でも風邪をひく。
それは困る。
主に、看病するこちら側が。
ある日、作戦を思いついた。
長ズボンだけでも履かせよう。
なんとか説得して、成功した。
よし。
……と思っていたら、スパイから報告が入った。
スパイというのは、小6の娘である。
毎朝一緒に学校に行っている。
見ている。全部。
「ね、パパ。あの子さ、長ズボンの下に半ズボン履いてるんだよ。学校着いたら脱いでた」
上に長ズボン。
下に半ズボン。
学校に着いたら長ズボンを脱ぐ。
計画的だった。
長袖も同じだった。
「着いたら脱いでた」
スパイの報告は正確だ。
先日、息子と道を歩いていた。
向こうから、半袖半ズボンの小学生のお兄さんが歩いてくる。
その日の息子は、無理やり長ズボンを着ていた。
息子が、ぽつりと言った。
「……いいなあ、あのお兄さん」
悲しい顔で。
本当に、悲しそうに。
そんな顔、するんだなと思った。
少し、考えた。
来年の冬は、半袖半ズボンで行かせてみようか。
ただ、ママがどう言うかが最大の難関だ。
韓国出身、日本在住16年。
なんとか流れ着いて父になった。
上の娘はわりと穏やか。
下の息子は、毎日ちょっと濃い。
