40代から『優秀な人と付き合え』が効かなくなる理由
「優秀な人と付き合えば、自分も伸びる」
若い頃は、それだけでもよかった。
だが40代を過ぎると、同じ処方が効きにくくなる。
問題は年齢ではない。
あなたが「教わる側」から「教える側」に移ったことだ。
「自分より優秀な人と付き合え」は
ビジネス書でも、経営者のインタビューでも、よく出てくる助言です。
優秀な上司の仕事を見る。先輩から修正される。会議で考え方を盗む。知らなかった仕事の型を覚える。
ところが、40代、50代になっても同じことだけを続ければいいのでしょうか。
ホワイトカラーの研究を追っていくと、少し違う構造が見えてきます。
優秀な同僚がいれば、自分も優秀になるのか?
まず、この前提そのものを疑ってみます。
コルネリッセン、ダストマン、シェーンベルクは2017年、特定企業ではなく、広い労働市場を対象に同僚から受ける影響を調べました。
結果は意外です。
全職種平均で同僚効果は小さく、知識の共有が起きそうな高スキル職でも小さかったのです。(アメリカ経済学会)
つまり、
「優秀な人の近くに行けば、その能力が自分にも移る」
という単純な図式は、少なくとも高スキルの仕事では強く支持されません。
では、なぜ私たちは「優秀な人のそばにいると伸びる」と感じるのでしょうか。
ここを分解すると面白くなります。
若手には、実際に「そばにいる」効果がある
ソフトウェアエンジニアを調べた研究があります。
対象はFortune 500企業のエンジニア。2019〜2024年のデータを使い、オフィス閉鎖や出社再開によって、同僚との物理的距離が変化した影響を分析しています。
同僚の近くで働くと、コードに対するフィードバックが増え、コード品質も改善しました。
ところが、その恩恵は均等ではありません。
効果が集中したのは、若く、在籍期間の短いエンジニアでした。(NBER)
理由を考えるとわかりやすい。
若手には「まだ知らないこと」が大量にあります。
仕事の進め方、判断基準、失敗の避け方、社内での暗黙のルール。
経験者の近くにいるだけで、こうした知識が流れ込んできます。
つまり若手にとって、人間関係は巨大な学習装置なのです。
ところが、経験者になると立場が逆転する
同じ研究には、もう一つ重要な結果があります。
経験豊富なエンジニアは、同僚の近くで働くと、自分が書くコード量が減りました。(NBER)
なぜか。
周囲から学ぶだけではなく、周囲に教える側になるからです。
質問される。コードを見る。修正する。判断を求められる。
ここで人間関係の収支が変わります。
若手のときは、
人間関係 → 自分への知識流入
だった。
経験を積むにつれて、
自分 → 人間関係への知識流出
が増えていく。
これが「優秀な人のそばにいれば伸びる」が、キャリアのどこでも同じようには成立しない理由です。
40代から問題になるのは「人脈」より情報経路
管理職や専門職になると、さらに問題があります。
いつも話す相手が固定されていきます。
Microsoftの情報労働者61,182人を分析した研究では、全面的なリモートワークによって協働ネットワークがより固定的になり、組織内の異なる集団をつなぐ橋が減りました。(Nature)
ここで問題なのは「友人が少ないこと」ではありません。
同じ情報が同じ経路を循環することです。
役職が上がれば、部下から報告が来る。同じ幹部と会議をする。同じ取引先と会う。
人には会っている。
しかし、新しい情報源には会っていない。
この二つはまったく違います。
だから「すごい人と親しくなる」が最適解とは限らない
では、新しい機会はどこから来るのか。
LinkedInを使った大規模なランダム化実験が参考になります。
ライクマーらは、2,000万人超を対象に「弱いつながり」が転職に与える因果効果を調べました。
結果は、強いつながりより弱いつながりのほうが、新しい仕事につながりやすいというものでした。ただし、弱ければ弱いほどよいわけではありません。(PubMed)
これは40代以降の人脈を考えるうえで重要です。
毎週会う親友を増やす必要はない。
むしろ、
普段とは違う業界の人。
年齢の離れた人。
別の専門を持つ人。
たまに情報交換する人。
こうした接点が、自分の情報圏の外側と橋を架けます。
目的関数は「付き合う人のレベルを上げること」ではありません。
自分に入ってくる情報の種類を増やすことです。
ただし「優秀な人と働く価値」が消えるわけではない
ここも重要です。
証券会社のアナリストを調べた研究では、M&Aによって同僚が増えた際、予測能力の高いアナリストでは予測精度が改善しました。
一方、能力の低いアナリストには同じ効果が確認されませんでした。(IDEAS/RePEc)
つまり、
「優秀な環境に入れば、環境が自分を引き上げてくれる」
とも限らない。
新しい人間関係から価値を取り出すには、受け手側にもそれを吸収する能力が必要だという可能性があります。
人脈は能力の代用品ではないのです。
キャリア後半では、人間関係の目的を変える
ここまでを整理すると、かなり単純です。
若手の人間関係は、
「誰から学ぶか」
が重要です。
しかし経験を積むほど、
「どこから、自分にない情報を入れるか」
の重要性が上がっていく。
だから40代、50代になって、
「もっと成功者と付き合わなければ」
と考える必要はありません。
必要なのは、人間関係の格上げではなく、情報経路の組み替えです。
いつもの業界だけでなく、別の業界へ。
同世代だけでなく、別の世代へ。
同じ専門だけでなく、異なる専門へ。
深い関係だけでなく、弱いつながりへ。
そして、自分が教える側になっている場所だけでなく、再び「自分が知らない側」になる場所へ。
キャリア前半では、優秀な人の近くに行くことが成長につながりやすい。
キャリア後半では、その処方をそのまま続けても限界があります。
変えるべきなのは「誰と付き合うか」だけではありません。
自分の外側から、何が入ってくる構造になっているか。
40代から見直すべきなのは、人脈そのものより、こちらです。
出典
* Cornelissen, T., Dustmann, C. & Schönberg, U. (2017), “Peer Effects in the Workplace,” American Economic Review
* Emanuel, N., Harrington, E. & Pallais, A., “The Power of Proximity to Coworkers,” Quarterly Journal of Economics
* Yang, L. et al. (2022), “The effects of remote work on collaboration among information workers,” Nature Human Behaviour
* Rajkumar, K. et al. (2022), “A causal test of the strength of weak ties,” Science
* Nguyen, L. T. M., Cheong, C. S. & Zurbruegg, R. (2021), “Brokerage M&As and the peer effect on analyst forecast accuracy,” International Review of Financial Analysis
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