「検索される会社」より「AIに薦められる会社」が強くなる
「検索する人」が消える──AI時代、消費者はどうやって商品を選ぶのか
欲しいものがあったら、Googleで検索する。
いくつかのサイトを開き、価格を比べ、口コミを読み、自分で決める。
この20年、私たちはそれを当たり前だと思ってきた。
しかしAIが検索を代行するようになると、この「当たり前」が崩れる。
これから起きるのは、検索方法の変化ではない。
「人が選ぶ」という消費行動そのものの変化だ。
AIDMAからAISASへ
マーケティングには、消費者が商品を知ってから購入するまでを説明する「消費者行動モデル」があります。
代表的なのがAIDMAです。
Attention(認知)
↓
Interest(興味)
↓
Desire(欲求)
↓
Memory(記憶)
↓
Action(購買)
テレビや新聞、雑誌などのマスメディアが強かった時代には、企業が広告を出し、消費者の注意を引き、欲しいと思わせ、覚えてもらい、店で買ってもらう。
比較的わかりやすい流れでした。
ところがインターネットが普及すると、この構造が変わります。
そこで登場したのが、電通が提唱したAISASです。
Attention(認知)
↓
Interest(興味)
↓
Search(検索)
↓
Action(購買)
↓
Share(共有)
大きな変化は「Search」と「Share」です。
消費者は広告をそのまま信じなくなった。
気になった商品があれば、自分で検索する。
そして購入したら、ブログや口コミサイト、SNSなどで感想を共有する。
企業から消費者への一方通行だった情報が、循環し始めたわけです。
SNSはさらに「共感」を中心に置いた
そしてSNSが普及すると、もう一つ重要な変化が起こります。
「何を買うか」より前に、
「誰に共感するか」
が強い影響を持つようになったのです。
その変化を捉えたモデルの一つが、2011年に電通の社内横断組織「サトナオ・オープン・ラボ」が提唱したSIPSです。
Sympathize(共感)
↓
Identify(確認)
↓
Participate(参加)
↓
Share & Spread(共有・拡散)
興味深いのは「購入」が中心に置かれていないことです。
「いいね」をする。
フォローする。
コメントする。
イベントに参加する。
商品を買う。
そして誰かに紹介する。
すべて広い意味での「参加」です。
SNS時代には、
企業 → 消費者
ではなく、
人 → 人 → 人
というネットワークによってブランドが形成されるようになりました。
そしてAIが「検索」を食べ始める
ここからが現在進行形の変化です。
AISASには「Search」がありました。
しかし、AI時代にはSearchの意味そのものが変わります。
たとえば旅行先のホテルを探すとします。
これまでは、
「京都 ホテル おすすめ」
と検索して、検索結果を眺め、何軒ものホテルを比較していた。
ところがAIなら、
「京都で静かに過ごせて、日本文化を感じられ、駅からアクセスがよく、予算3万円前後のホテルを5軒比較して」と聞けばいい。
AIが、
検索する
↓
情報を集める
↓
比較する
↓
要約する
↓
候補を絞る
ところまで代行してくれます。
つまり、従来人間がやっていた「Search」が、
Consult(相談)+ Evaluate(評価)+ Recommend(推薦)へ変わっていく。
検索エンジンから「意思決定エンジン」への変化です。
AIが「代理人」になると、さらに変わる
もう一段先まで考えてみます。
AIがエージェント化すると、
「探して」
だけではなく、
「この条件ならどれがいい?」
「比較して」
「予約できるものを探して」
といった仕事まで任せられるようになります。
すると消費行動は、
人間が検索する
↓
人間が比較する
↓
人間が選ぶ
から、
人間が希望を伝える
↓
AIが探す
↓
AIが比較する
↓
AIが候補を絞る
↓
人間が最終判断する
へ変わっていく。
場合によっては、その先の購入や予約までAIが担うでしょう。
ここまで来ると、企業にとって重要な問題が一つ増えます。
人間に選ばれるだけでは足りない。
AIの推薦候補にも入らなければならないのです。
これからブランドは「二人」を説得する
AI時代のブランドには、二つの相手が存在します。
一人目は、人間。
人間が求めるのは、
共感、物語、美意識、体験、人格、世界観。
もう一人は、AI。
AIが扱いやすいのは、
明確な専門性、一次情報、構造化された情報、評判、引用、検証可能性、一貫性。
つまり、
人間には「好き」と思われ、
AIには「信頼できる」と判断される。
この両方が必要になります。
私はここが、これからのブランディングで非常に重要になると考えています。
AI時代の新しい消費行動モデル
AIDMA、AISAS、SIPSの延長線上で考えるなら、AI時代の消費行動はこんな形になるでしょう。
共感
↓
AIへの照会
↓
比較・検証
↓
信頼
↓
参加・購買
↓
体験
↓
共有・記録
↓
再推薦
しかも最後の「共有・記録」が重要です。
誰かが商品について記事を書く。
SNSに投稿する。
レビューを書く。
動画を公開する。
その情報が検索され、AIにも参照され、次の誰かの意思決定に使われる。
すると、
人間の体験
→ データ
→ AI
→ 推薦
→ 新しい人間の体験
という新しい循環が生まれます。
すると、意外なことが起きる
AIが合理的な判断を代行するほど、人間には逆の価値が重要になる。
「なぜかわからないけれど、この人が好き」
という感覚です。
価格比較はAIができる。
スペック比較もできる。
大量の口コミを読むこともできる。
条件に合う商品を探すこともできる。
だからこそ、
「この人から買いたい」
「この人の話をもっと聞きたい」
「このブランドの世界観が好きだ」
「ここに参加してみたい」
という、人間特有の感情の価値が相対的に高くなる。
AI時代だから、人間性が不要になるのではない。
むしろ逆です。
合理性をAIが引き受けるほど、人間には「共感される理由」が求められる。
「検索される」から「推薦される」へ
これまで企業や個人は、
Googleで上位表示されること
を競ってきました。
これから重要になるのは、
AIが誰かに質問されたとき、推薦候補に入ること
です。
「この分野なら、この会社」
「このテーマなら、この人」
「こういう体験なら、ここ」
とAIから認識される状態を作る。
そして人間が実際にそのページを見た瞬間には、
「なんだか、この人は面白い」
と思わせる。
ここにAI時代のブランド戦略の二重構造があります。
AIには、理解される構造を。
人間には、共感したくなる世界観を。
AIDMAの時代、企業は人間の「注意」を奪い合いました。
AISASの時代、人間の「検索」を奪い合いました。
SIPSの時代、「共感」を奪い合うようになった。
そしてAI時代。
競争の舞台は、おそらくもう一段変わります。
「誰に検索されるか」から、
「誰に推薦されるか」へ。
その推薦者が、人間だけではなくAIにもなる。
私たちは今、その入口に立っています。
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