AI時代とは、価格競争の時代ではない。比較されない価値を設計する時代なのである。
「市場が大きいほど儲かる」は幻想だ
かつて社長の教祖とも言われた経営コンサルタント一倉定が半世紀前に見抜いていた高収益企業の条件
「市場が大きいほど儲かる。」とは
経営の世界では、今でもよく聞く考え方だ。
市場が大きければ売上も伸びる。売上が伸びれば利益も増える。だから大きな市場を目指そう。
一見もっともらしい。
しかし、一倉定は半世紀以上前に、この常識を真っ向から否定している。
【一倉定(1918–1999)】「社長の教祖」と呼ばれた日本を代表する経営コンサルタントである。数千社の経営指導を通じて、「利益を生む会社」と「利益を失う会社」の違いを徹底的に見抜き、その実践知は今なお多くの経営者に読み継がれている。
「世の中になくてもよいもの」は、高収益を期待できる。

一見すると、高級品を売れという話に聞こえる。
しかし、この一文の本質は高級品論ではない。
競争戦略論である。
一倉定は「市場」の「競争」を見ていた
多くの経営者は市場規模を見る。
しかし、一倉定が見ていたのは競争の密度だった。
市場が大きくなれば魅力を感じる企業が集まり、価格競争が始まる。
構造で表せば、
市場規模拡大 → 参入企業増加 → 価格競争 → 利益率低下
となる。
一方、一倉が勧める市場は逆だ。
市場は小さい → 参入企業が少ない → 比較されにくい → 価格決定権を持てる → 高利益率

つまり、利益率を決めるのは市場規模ではなく、競争密度なのである。
「世の中になくてもよいもの」とは何か
この言葉は誤解されやすい。
一倉は「役に立たないもの」を売れと言っているわけではない。
生活必需品は誰もが買う。
だから価格比較されやすく、価格競争に巻き込まれる。
一方で、
趣味、
芸術、
ブランド、
嗜好品、
特別な体験。
これらは「欲しい人」が価値を感じて買う。
価格だけで比較されにくいため、価格決定権を持ちやすい。
つまり、一倉のいう「世の中になくてもよいもの」とは、
価格ではなく価値で選ばれる市場
を意味している。
なぜ「中小企業の狙いは常に高級品にある」のか
一倉定はさらにこう断言する。
「中小企業のねらいは常に高級品にあるというのが私の年来の主張である。」



ここでいう高級品とは、高価な商品ではない。
独自の価値によって価格競争を避けられる商品・サービスである。
大企業は規模の経済を武器にできる。
大量生産し、大量販売し、価格競争にも耐えられる。
しかし、中小企業が同じ土俵で戦えば不利なのは明らかだ。
だから一倉は、
戦う市場そのものを変えろ
と言ったのである。
専門性を磨き、
独自価値をつくり、
比較されない存在になる。
そうすれば企業規模ではなく、価値で勝負できる。
現代経営学とも驚くほど一致する
この考え方は、現在の経営学とも高い整合性を持っている。
マイケル・ポーターは、持続的な利益は差別化による競争優位から生まれると説いた。
ブルー・オーシャン戦略は、競争の激しい市場ではなく、新しい価値空間を創ることを提唱した。
ブランド論の第一人者デビッド・アーカーは、ブランド資産が価格決定力を生み出すことを示した。
さらに、ジャン=ノエル・カプフェレは、ラグジュアリーブランドは希少性を維持することで高収益を実現すると論じている。
理論は違っても、構造は同じだ。
比較されなければ、価格競争は起きない。
世界の高収益企業も同じ構造だった
世界を見渡しても、この構造は変わらない。
Hermès。
Ferrari。
Rolex。
LVMH。
これらの企業は、大量販売を目指していない。
顧客が買っているのは商品だけではない。
歴史、
職人技、
世界観、
ブランド、
希少性。
こうした「代替できない価値」に対して対価を払っている。
だから価格決定権を持ち、高い利益率を維持できる。
日本でも同じだ。
燕三条の金属加工、堺の刃物、鯖江の眼鏡、西陣織、有田焼などは、市場規模は決して大きくない。
それでも世界中から選ばれる理由は、価格ではなく価値で勝負しているからである。
AI時代だからこそ重要になる
生成AIは、普通の商品、普通の記事、普通のサービスを大量につくる。
つまり、「ありふれたもの」の供給はさらに増える。
供給が増えれば価格競争は激しくなる。
その一方で、
世界観、
ブランド、
文化、
コミュニティ、
卓越した技術、
希少な体験。
こうした簡単には複製できない価値は、むしろ希少性を増していく。
AI時代とは、価格競争の時代ではない。
比較されない価値を設計する時代なのである。
おわりに
一倉定の「世の中になくてもよいもの」という言葉は、一見すると挑発的だ。
しかし、その本質は極めて合理的である。
市場の大きさを追うのではなく、
競争を避け、
比較されない価値をつくり、
価格決定権を持つ。
半世紀以上前に語られたこの思想は、ポーターの競争優位、ブルー・オーシャン戦略、ブランド論、ラグジュアリー戦略へとつながる現代経営学とも見事に重なる。
AIがあらゆるものを大量生産する時代だからこそ、一倉定の言葉は、これまで以上に重みを持ち始めている。
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