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「もう少し頑張れば」が一番危ない。成功した人ほど「やめられない」理由

「ここまでやったんだから、もう少しだけ頑張ろう」

仕事でも、投資でも、人間関係でも、そう思った経験はないだろうか。

努力してきた時間が長いほど、途中でやめるのは難しい。しかも厄介なのは、一度成功した人ほど「このやり方は正しい」という確信まで持っていることだ。

けれど、環境が変わったあとも昨日の正解を続けることは、本当に「努力」なのだろうか。

人生で怖いのは、失敗することではない。間違ったゲームで勝とうと、努力を続けてしまうことだ。

「撤退も戦略のうち」とよく言われる。

だが、本当に重要なのは「撤退する勇気」なのだろうか。

私はもう一段深いところに問題があると思う。
その深いところを図表で置いて、解説してみます


環境が変わったのに、昔決めた「何をもって勝ちとするか」を変えられない。

企業でも個人でも、これこそが本当の戦略的失敗ではないか。

「どう勝つか」の前に「何を勝ちとするか」

戦略を考えるとき、多くの人はいきなり「どうするか」を考える。

しかし、その上には「目的関数」がある。

難しく聞こえるが、簡単に言えば、

「何が増えれば、自分は勝ったことになるのか」

という判定基準だ。

企業なら、売上なのか、利益なのか、市場シェアなのか、企業の存続なのか。

目的関数が違えば、最適な戦略も変わる。

戦場でも同じだ。

通常なら「敵に勝つ」ことが目的になる。
しかし圧倒的に不利になれば、「敵を倒す」から「自軍を保存する」へ目的が変わる。

すると昨日まで敗北に見えた「退却」が、今日は最適解になる。

行動の意味は、目的関数によって反転する。

だから戦略を考える前に、「自分はいま何を勝ちと定義しているのか」を確認しなければならない。

シャープは、なぜ液晶から離れられなかったのか

シャープの液晶事業は、この問題を考える格好の事例だ。

液晶市場が成長していた時代、

液晶技術を磨く

大型工場へ投資する

規模を拡大する

市場で優位に立つ

という判断には合理性があった。

問題は環境が変わった後である。

市場や競争条件が変わっても、それまでの成功体験、工場、技術者、取引先、ブランド、人事評価までが液晶を中心に組み上がっている。

すると、

「液晶事業を縮小する」
という判断は、単なる一事業の撤退ではなくなる。

「シャープとは何の会社なのか」
という自己定義まで壊すことになる。

ここに成功企業特有の罠がある。

成功すると、

成功体験

設備投資

人材配置

評価制度

企業文化

自己認識

という順番で、過去の成功モデルが組織そのものへ埋め込まれていく。

だから成功体験は資産であると同時に、未来の選択肢を狭めることがある。

では、インテルも同じなのか

ここで興味深いのがインテルだ。

インテルも長年、

「半導体を設計するだけでなく、自分たちで最先端半導体を製造する」
という垂直統合モデルを競争力の源泉としてきた。


ところが半導体製造ではTSMCなどが台頭し、最先端工場への投資額も巨大化した。

そこで、

「巨額投資を続けるインテルは、液晶にこだわったシャープと同じではないか」

という見方が出てくる。

しかし、ここは慎重に考える必要がある。

現在のインテルは、次世代プロセス「14A」について、有力な外部顧客を十分に獲得できなければ、その後の先端プロセス開発を停止する可能性まで公式に示している。

つまり、

何があっても自社製造を続ける」とは言っていない。

むしろ、

顧客が付くか

性能・歩留まりが競争水準になるか

巨大投資を回収できる需要があるか

条件を満たせなければ縮小・撤退も検討する

という条件付き戦略になっている。

これは重要な違いだ。

インテルは現在、

「続ける/やめる」の二択ではなく、「条件が成立する限り続ける」というリアルオプションを持っている

と見る方が正確だろう。

「赤字だから撤退」でもない

さらにインテルには、シャープの液晶とは異なる事情がある。

半導体製造から撤退すれば、自社CPUまでTSMCなど外部ファウンドリーへの依存度が高まる。

最先端製造技術、技術者、研究開発能力、サプライチェーンも失う可能性がある。

さらに半導体は、いまや国家安全保障そのものに関係する産業だ。


つまりインテルの製造事業の価値は、単純な事業利益だけでは測れない。

続ける価値には、

将来利益
+技術を保持する価値
+供給網を保持する価値
+人材・知識を保持する価値
+国家安全保障上の価値

まで含まれる。

一方、撤退する価値には、

将来損失の回避
+巨額投資の削減
+他事業へ資本を振り向けられる価値

がある。

この二つを比較して初めて、撤退すべきかどうかが決まる。

だから、

赤字=撤退

ではない。

逆に、

過去に巨額投資した=継続

でもない。

ここが戦略と単なる根性論の境界になる。
だから「撤退条件」を先に決める


そこで私は、「目的→戦略→戦術→行動」という一般的なモデルの間に、もう一つ階層を入れた方がよいと考えている。

目的関数

仮説・前提条件/継続条件・撤退条件

戦略


戦術

行動

である。

戦略を決めるとき、
「この戦略は正しい」

だけでは不十分だ。


同時に、

「何が成立している限り、この戦略は正しいのか」
を決めておく。


例えば、

市場が一定以上成長する。
3年以内に顧客を一定数獲得する。
技術性能が競争相手に追いつく。
一定の利益率を達成する。

こうした前提条件を明示する。

そして、

「期限までに達成できなければ縮小する」
「前提となる技術条件が崩れれば撤退する」
と先に決めておく。

これなら、過去の成功体験やサンクコストに判断を支配されにくい。

本当に強い人は「上へ戻れる」

これは企業だけの話ではない。

人生でも同じことが起きる。

うまくいかなければ、多くの人は行動を変える。

それでも駄目なら方法を変える。

さらに考える人は戦略を変える。

しかし、それでも解決しない場合がある。

そのとき必要なのは、

「そもそも、何のためにこれをやっているのか」
まで戻ることだ。


行動

戦術

戦略

目的関数

価値観

存在目的

環境が大きく変わったときには、この階段を上へ戻らなければならない。

場合によっては、

「もっと努力する」

ではなく、

「努力しているゲームそのものを変える」
ことが最適解になる。


だから戦略能力とは、最初から正しい戦略を当てる能力ではない。
前提が崩れたとき、自分はいまどの階層まで戻って考え直すべきなのかを判断する能力である。

AIによって産業も仕事も知識の価値も急速に変化していく時代には、この能力はさらに重要になる。

昨日の正解を今日も一生懸命実行する人より、
「昨日の正解は、今日も正解なのか」と問い直せる人の方が強い。

撤退とは、負けを認めることではない。

より上位の目的を守るために、下位の目的を捨てることなのである。

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