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【記者日記】水平社博物館を訪ねて


                                         かわすみかずみ

  2025年4月30日、念願の水平社博物館を訪ねた。奈良県御所市にある同博物館までは大和八木駅などからバスがでているそうだが、1日に4本程度だという。奈良に住む友人に車で同行してもらい、大和八木駅から約30分かかって到着した。当日お願いしていた施設案内のボランティアは奈良新聞出身の方で、説明も分かりやすく丁寧だった。

  最初にフィールドワークに行った。博物館の前にある西光寺は、水平社創立メンバーのひとりである西光万吉の生家だ。西光万吉は画家になる夢を叶えるために上京した。将来を嘱望されるなど実力があったが、被差別部落出身であるために差別を恐れ、心を病んでしまい筆を折った。

  水平社のマークである荊冠旗のデザイン、集会のポスターなど、パッと目を引くポップで現在にも通用するデザイン性は、ボランティアガイドも一目置いているという。「レオナルド·ダビンチ級の人物」とボランティアガイドは評した。水平社宣言の草案も西光を中心に作られたとされ、多才だったと言われている。寺には西光と妻の美す子の墓があった。1970年まで生きた西光。70年万博が行われ、高度経済成長期を迎えた日本を西光はどのように見つめたのだろう。

 西光寺の境内には昔、髪結いや風呂屋があった。柏原村は被差別部落ではあったが、裕福な家も多かった。万吉はそこで、人々に未来を語ったという。今はないが、将来は電気でご飯を炊くことができる、など、今の社会を予測していたそうだ。
2008年9月3日に建てられた「5万日の日延べ」の碑。明治の解放令の日から数えて5万日目が2008年9月3日なのだという。  

柏原村一帯には、「本村」(ほんそん)と枝郷(えだごう)があり、枝郷は本村の支配下にあった。解放令が出た日、本村から呼ばれた枝郷のものが「解放令は5万日ひのべ(延期)になった」と嘘をつかれたという伝承が残っている。5万日後の2008年9月3日、差別はなくなったのか? なくなってはいなかった。その思いを込めて建てられたものだとガイドの女性は語った。


部落の未来を語り合った「建議の庭」


  西光寺の後ろに控える小高い丘に、燕会が建立した燕神社はあった。急な石段をのぼった。燕神社の前は、広場が整備されており、当時そこは「建議の庭」と言われ、演説会や食事会などが行われた。御祭神は旧西中島村から迎えた。解放令50年の節目に作られた燕神社は、この場所で西光らが新しい部落民の生き方を模索した伊吹を感じる場所だ。

  水平社創立メンバーの駒井喜作や阪本清一郎の生家跡などをまわり、水平社宣言記念碑を見学。神武天皇社と隣接する誓願寺へと向かった。

神武天皇社は地図上では上賀茂神社、下鴨神社と一直線に並び、京都から裏鬼門にあたる。柏原村一帯から陰陽師が使う特殊な石が出土していることから、部落民の祖先は陰陽師だったのではないかと言われている。境内の狛犬は本村側から寄進された。当時の村どうしの力関係がよく分かる。

  誓願寺の住職だった三浦参玄洞は水平社の運動を支援した。『水平社創立趣意書』を西光たちが印刷しようとした際に、その内容から印刷業者が検閲を恐れた。そのため印刷業者が見つからず、困っていたときに三浦が業者を紹介した。

 

  館内を見学


  ここから館内に戻り、見学。燕会のマーク(3匹のつばめ)は西光万吉がデザインしたと言われている。2階の展示室の最初の映像は、燕会のマークだった。展示は水平社設立の前から、設立後まで、時系列に並んでいた。

  西光らの親世代が立ち上げた「大和同志会」。その活動を見ていた彼らは、当初旅行団体として設立した燕会を、村の生活改善や区政改革を図る事業に変えた。水平社の設立を機に全国で解放組織ができていった。

  中でも圧巻だったのは、京都市公会堂で行われた全国水平社創立大会の様子を再現したファンタビューシアターだった。ファンタビューとは、中小企業などのPR用に取材したものを記事化して宣伝するものを言う。この方式で当時の紙媒体の資料などを紐解き、参加者の動きを推測。映像で再現した。

  筆者は以前、京都大学吉田寮でこの日のビラを見たことがある。1922年のビラが今もそこにあった。そのときの背筋がゾワッとなるような感動を再び味わった。

  水平社宣言についての解説コーナーもあった。水平社宣言は綱領、宣言、則、決議文に分かれている。綱領は理念を表し、決議文は行動計画を伝える。宣言文には「殉教者」という言葉が使われ、キリスト教の影響が見られる。ロシア共産党宣言から引用した言葉や仏教用語も使われ、幅広い知識をもって書かれたことが分かる。

  これまで幾多の部落差別と闘ってきた歴史が、ここに静かに眠っている。5万日どころか、今も差別はなくなっていないという現実を、わたしたちは考えていかねばならない。


                                                                                     

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