生き霊飛ばし世界大会
「あなたの熱い想いなら必ず優勝できるって信じてる」
彼女は恥ずかしそうに笑いながら俺に言った。
今年から初めて生き霊飛ばしの世界大会が開催される。
俺は日本代表に選出された。
俺の滾る想いは誰にも負けない。
来たる世界大会の為に 取り替えもした。
熟成された想いも強いが、新しく燃えるような想いの方が俺の性に合っている。
「さぁついにやってまいりました!」
スタジアムは満員だ。
司会の声で会場の歓声が凄い。
「生き霊飛ばし世界大会の始まりです!」
うぉぉぉと地響きのような歓声があがる。
俺は選出入場で観客席に手を振りながらも 想いを募らせている。
もう戦いは始まっているんだ。
初の世界大会はエジプト、ペルー、日本、中国の4国だ。
どこも古い遺跡と呪いの文化が根付いている強敵揃い。
だが俺は負けない。
この競技は日本人に親和性が高い。
そもそも日本発祥の競技だ。
敗北は許されない。
「各国の選手が出そろいました。みんな心の内に秘めたる強い想いを感じますね!」
司会は興奮しているようだ。
「ここでルール説明をします」
「生き霊飛ばしとは、生き霊を出現させた飛距離を競う競技となっております」
「競技としての歴史は浅いですが、生き霊というのは我々人類が誕生して以来 共にあった現象です」
またスタジアムは沸く。
俺はこの時間も想いを練ることに余念はない。
「生き霊を飛ばす相手を任意の場所に配置します」
「こちらで指示した合言葉を、その相手が言うことが出来れば生き霊が現れた証明とします」
「ちなみに現在の世界記録は中国代表の1,500kmです」
「この記録を基準に各国の選手は合わせてくると予想されます」
中国陣営の応援に熱が入る。
生き霊を飛ばしかねない熱量だ。
「えーここで解説の陰陽師の先生にお話を伺います」
「先生、生き霊を飛ばすというのは難しいのでしょうか」
司会が それっぽい服を着た陰陽師に尋ねる。
「そうですね。出すだけなら誰にでも出来ますが、正確に飛ばすとなると…やはりそれ相応の想いと精密なコントロールが求められます。常人であれば200kmも飛ばせれば十分といったところでしょう」
陰陽師は丁寧に解説する。
「なるほど。中国代表選手の記録の凄さがわかりますね」
「しかし中国の記録は恨めしい感情の生き霊でした」
「今大会では恨みや悲しみといった負の感情は失格です」
「ポジティブな生き霊を飛ばすことが絶対のルールとなります」
客席から 早く始めろ と野次が飛び始めた。
いやこれは生き霊だ。
観客の生き霊がこのスタジアムに渦巻いている。
「おっと、そろそろ始めないと私の身が危ないですね!」
「それでは第1回生き霊飛ばし世界大会を始めます!!」
スタジアムの熱気は最高潮に達する。
生き霊の量がさらに増えた。
俺の出番は最後。
悪くない。
想いを練る時間が増える分、後の方が有利。
他の3国の生き霊飛ばしが始まる。
さすがといったところか。
3国とも無事に生き霊を飛ばしやがった。
中国1,600km
ペルー1,200km
エジプト1,400km
これに芸術点が加算される。
4国の記録が出揃ってから加点が発表され順位が決まる。
でも俺はただ勝つだけじゃ満足できない。
圧倒的勝利で初代チャンピオンとして永遠に語り継がれるんだ…。
その為に、彼女も新しく取り替えた。
気持ちは 付き合って日が浅い程強い。
会いたくて会いたくて仕方がない気持ちを爆発させる。
この日の為にスマホは封印し 文通で気持ちを醸成させてきた。
さらにッ!
優勝したらチューしてもいいときてる。
うぉぉぉ!
高まってきたぞ。
「さぁ最後は日本代表選手の登場です」
「生き霊を飛ばす相手は…彼女さんのようです」
「データによると付き合って2週間とのこと。なるほど、これは燃えますね!」
客席も盛り上がっている。
「えーっと申告している彼女との距離は…75km…とのことです」
会場はどよめきに包まれる。
「これは芸術点で稼ぐ作戦なのでしょうか…」
「あ、今審判から合言葉を伝えられています」
俺は合言葉を受け取った。
この合言葉は予測がされないように意味不明な言葉となっている。
受け取った合言葉は「ヌウヌウ」か。
確かに予測不可能な言葉。
それにしてもさっきの距離を聞いた時の観客のどよめき…最高だ。
俺は歴史を作るぞ。
「あーっと?日本代表選手なぜか彼女がいる方向とは逆を向いています」
「こ、これはまさかーーーー!!!?」
俺は精神を統一させる。
俺の意識は身体を抜け スタジアムを抜け 地球を抜ける。
宇宙から地球を見下ろすイメージ。
いけッ!俺の生き霊ッ!!
地球を一周するんだーーー!!!
しばしの沈黙。
スタジアムの巨大スクリーンには彼女との中継が映っている。
彼女は目を閉じて俺の生き霊を感じようとしている。
彼女の口が動く
「ヌウヌウ」
スタジアムにも合言葉が提示される。
沸き起こる歓声。
「な、なんとー!?生き霊が地球を一周したーー!!」
「今の記録…40,000km…」
スタジアムが壊れるんじゃないかという地鳴りのような歓声に包まれた。
俺はその場でガッツポーズをとった。
これでチューができる!
ピピー!
審判が笛を鳴らす。
主審と副審が集まってなにやら協議している。
主審が司会に伝言を伝える。
「えーただいまの日本代表選手の生き霊飛ばしですが…」
「スケベで邪な生き霊であった為、失格です」
俺はその場に崩れ落ちた。
