恐怖症オリンピック 【ショートショート】
「さて4年に一度の祭典『恐怖症オリンピック』が始まりました」
司会者がそう宣言する。
「えー対人関係恐怖症の私がオンラインで司会をし、高所恐怖症の彼女は一階で解説をしてもらいます」
会場は盛り上がりをみせる。
様々な恐怖症をもつ人々が各部門に分かれてどちらがより強力に恐怖を感じているのかを競う
「恐怖症オリンピック」
人類の多様性に対応した新たなスポーツとして発展し、今回で4大会目にあたる。
「えー尚、今大会から新たな競技が設立されました。これまでは既存の恐怖症の中から恐怖の度合いで競って来ましたが、新たな恐怖症のみで競う『ニューフォビアコロシアム』が新設されました」
「まさに!恐怖症の異種格闘技戦ッ!」
司会者は熱気のこもった音声のみで会場に伝える。
会場は新たな競技に興味しんしんだ。
「これは新たに開発された恐怖測定機『フォビアメジャーMK 2』の導入が決め手となり叶ったことですね」
解説が補足し、競技の説明をはじめた。
選手の恐怖度は中央の巨大スクリーンにリアルタイム表示されている。
ゲージが緑なら平常心
ゲージが黄なら恐怖を感じている
ゲージが赤なら恐怖に怯えている
ゲージが白なら恐怖のあまり現実逃避している
などの目安となる。
その他にも心拍なども数値化されており、それを基に恐怖度を算出している。
一定時間内にその数値の大きい者が勝者となる。
人間の限界に挑戦するこのオリンピックは大好評を博した。
人気の恐怖症戦の観覧チケットは人気で 即完売し転売する者が後を絶たない。
運営は頭を悩ませた。
しかし転売恐怖症の選手は敢えて人気チケットを転売することで数値を上げ金メダルを獲得する者も会った。
こうして数日間を通して既存の恐怖症の対決が行われた。
閉所恐怖症は棺桶に一時間入り恐怖度を測定した
高所恐怖症は特設された高台に命綱なしで上り恐怖度を測定した
先端恐怖症は各自が持ち込んだ先端を目に向けたり、腕に刺すフリをしたりして恐怖度を測定した
男性恐怖症は大勢の屈強な男性とフォークダンスを踊り恐怖度を測定した
花粉恐怖症では花粉アレルギーが混じっており失格となった
それぞれのメダリストは称えられた。
そしてついにニューフォビアコロシアムが始まる。
これまでに認知されていなかった恐怖症たちが参戦した。
コードレス恐怖症
成層圏恐怖症
宇宙人恐怖症
脳みそ恐怖症
ひらがな恐怖症
地球恐怖症
ボルトナット恐怖症
ブレーキ恐怖症
などなど実に多くの恐怖症が一同に介した。
一斉に恐怖度を計測するバトルロワイヤル形式で行われる。
それぞれが自分の恐怖症と向き合い恐怖度の数値を上げていった。
その様に観客は感動した。
そんな中 自称しているだけで実際には恐怖症ではなく、ただ単に嫌いだ という人も多く紛れ込んでいた。
しかし フォビアメジャーMK 2は全てお見通しで誤魔化せなかった。
バトルロワイヤルは佳境に差し掛かった。
「さぁ最後に立っているのはどの恐怖症かーッ!」
司会と解説が数値を見ながら熱く実況する。
死屍累々の競技場にはふたりの恐怖症が立っていた。
オリンピック恐怖症と金メダル恐怖症のふたり。
それぞれが立っているのもやっと という出で立ちだ。
「オリンピック恐怖症はこの会場にいること自体が自殺行為だーっ!恐怖度はスゴイ数値を叩きだしているー!」
「一方、金メダル恐怖症は勝ってしまうと金メダル獲得という瀬戸際に立たされたー!」
「両者睨み合っております!数値は拮抗しているッ!」
司会も解説も観客も固唾をのんで見守る。
一瞬の静寂の後、オリンピック恐怖症が動いた。
「金メダル恐怖症は…この勝負に負ければなんの支障もないだろう…しかしオリンピック恐怖症の俺は…トップ3に入った段階で次回大会のシード権を獲得してしまった…」
「俺の恐怖症はこれからだッ!」
そうオリンピック恐怖症の男は大きな声で叫んだ。
その圧に負けたのか金メダル恐怖症の恐怖度はみるみる下がっていく。
負けを確信し金メダル獲得を諦めた証拠だった。
そしてオリンピック恐怖症の恐怖度はさらに上昇を続けた。
「あーっと!ここでタイムアップ!ニューフォビアコロシアムの初代チャンピオンは…オリンピック恐怖症だぁ!」
会場はスタンディングオベーションで拍手が鳴り止まない。
その勇姿に誰しもが感動した。
「えー尚、優勝者には2大会連続のシード権が授与されます」
それを聞いたオリンピック恐怖症の男はその場に崩折れ、意識を失った。
そしてそのまま目覚めることはなかった。
