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あの世からの電話 【ショートショート】

ブーン…ブーン…

スマホが振動している。

俺は画面を確かめる。

非通知だ。

非通知でまともな連絡があった試しがない。

俺は無視することにした。

ブーン…ブーン…

振動は一向に収まらない。

俺は仕方なく画面を横にスワイプし電話に出た。

「おー!やっと繋がった。よかったぁ」

聞き慣れない声だった。

「もしもし?もしもし?もしもーし」

俺が黙っているからかなんども もしもしを繰り返す。

「おーい、聞こえてるかー俺だよ俺!」

こんな古典的なオレオレ詐欺を目の当たりにしてなんだか新鮮さを感じてしまった。

「ちなみにおまえも俺な」

「意味わからんとは思うが全部を説明している時間はない」

「これから大事なことを言うからよく聞いてほしい」

「チャンスは一度きりだ」

急に電話口のトーンに真剣さが増した。

俺は黙っていた。状況が飲み込めずに電話を切ることもできない。

「ははは、俺はこういう時テンパって喋れなくなるんだよな」

電話口の男が笑う。
返事はいいから俺の言うことをしっかり聞いてほしいと前置きをしてから男は語りだした。

「俺はいま、未来のあの世から電話をかけている」

「まったくこのチャンスを得るのにずいぶんと苦労したぜ」

「おまえはもうすぐ死ぬ」

俺は衝撃を受けた。
この電話口の男は未来の俺で未来の俺はすでに死んでいるらしい。
そして俺に死なない方法を伝授しようとしているのだ。

「死神が言うには死ぬ未来を変えることは不可能らしい」

「だからおまえはこれから絶対に死ぬ」

「でもそれはあまり重要じゃない」

俺はポカンと口を開けたまま固まる。
俺はこれから死ぬのか。
しかも助かる方法は絶対にないときている。

「あの世は現世とは比べ物にならないぐらい楽しいからな」

「むしろ若いうちに死ねることは案外ラッキーなことかもしれない」

「ただし、完品ならの話だ」

「あの世では死んだ姿のまま暮らさないといけない」

「だから首吊りしたやつの首は長いし、飛び降りたやつはグシャってなってる」

とても悲惨なんだ、と言いながらひとつ深呼吸をして言った。


「そして俺にはナニがない」



俺はまたしても「はい?」と間の抜けた声を出してしまった。

「だから俺はあの世で楽しむことができない」

「ナニバニッシュとかナニナッシーとか言われて馬鹿にされる」

だから!
電話口からひときわ大きな声がする。

「絶対にナニを死守するんだ」

「死ぬ運命は変えられないが、死んでからの運命は変えられるんだ!」

俺は切り離されたナニだけがあの世に落ちている風景を想像していた。
そっちにナニだけ落ちているんじゃないのか?
そう言おうとしたら

「爆破されるんだ」

「自転車のサドルに爆薬が仕込まれていた」

「おまえの考えそうなことはわかる。なにせ俺だからな。どうせこっちにナニだけが落ちているんじゃないかとか考えていたんだろう」

「もしあっても使い物にはならないさ」

「爆裂しちまったからな」

俺はナニが爆散するところを想像して縮み上がった。

「だから自転車に乗る前になんとかキレイに死ぬんだ」

「血を抜いて死ぬのがいいだろう」



電話を終えた俺は職場に休む旨を伝え、浴槽に湯を溜めた。

あの世での余生?のために髪を整え、ムダ毛も処理した。

そして手首を深く切り湯の中につけた。

俺は薄れゆく意識の中で、ナニの存在を確かに感じていた。

俺達の勝利だ。

ありがとう未来の俺。

いまそっちに行くからな。









こ、ここは…。

本当にあの世なんてところがあったのか。

幻想的でとてもいいところだ。

なにせ あそこに裸の女性が寝ている。

その時、俺はナニのことを思い出し、存在を確認した。

ある。

たしかに俺の体にくっついている。

やったぞ。

爆裂する最悪の未来は回避されたのだ。




これから楽しくなりそうだ。

俺は裸の女性に近付いていく。

その時、俺は異変に気がついた。

裸の女性を目の当たりにしてナニがまったく反応していない。




ま、まさか…

俺はナニの立場になって考えた。




血がないからか…?




俺は絶望の中、海綿体ナニに「すまん」と謝りその場に崩れ落ちた。





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