わらしべ長者ゾンビ 【ショートショート】
あー退屈だなぁ。
なんか楽しいことないかなぁ。
幸せになりたいなぁ。
青年は天気の良い春の陽気だというのに家の中でダラダラしては未来の幸福を願うのだった。
そんな自堕落な青年を見兼ねて神様が現れた。
「おいそこの若造よ。そんなところで妄想にふけっているだけでは幸せはやってはこぬぞ」
神様は青年にそう告げる。
青年はというと、とつぜん現れた神を自称するお爺さんに面食らっていた。
「とはいってもおぬしのような若造にはちと難しかろうて」
ヒョヒョヒョ と笑いながら神様は言う。
青年は思考停止で話を聞いている。
「わらしべ長者という昔話を知っているだろう。アレを神レベルで訪れるようにしてやろう」
神様はそういうと 青年に見たことも無いような巨大な宝石を手渡した。
「わらしべ長者 神レベルじゃからの。しょっぱなから豪勢にゆこうぞ。ルールは簡単じゃ お主が幸せを感じるまで、このわらしべ長者は終わらん」
「最終的には絶対に幸せになれるまさに神レベルのわらしべ長者なのじゃ。感謝せぇよ。あ、そうじゃそうじゃ現金には交換できないからの 物々交換だけじゃぞ」
そう言い残すと、神様はヒョヒョヒョ と笑いながら消えていった。
嵐のように現れては消えた神様に 現実感が持てなかったが、そこには確かに巨大な宝石があった。
青年は巨大な宝石を手に取った。
それは偽物には見えず確かな輝きを放っていた。
しかし ものぐさな青年は宝石ではまったく幸せを感じなかった。
こんな巨大な石ころが部屋にあったのでは邪魔で仕方がない。
物々交換をして別の物にしよう。
そう思い立ち 重い腰を上げ、町へ繰り出した。
巨大な宝石を脇に抱えて歩いてるいるものだから目立つのなんの。
すれ違う人々は例外なく二度見した。
引きこもりがちの青年は 赤の他人にどう声を掛けて物々交換までもっていくのか見当もつかない。
ただただ宝石を脇に抱えて町中を練りあるいた。
さながらゾンビのように徘徊したのだ。
そんなゾンビ状態の青年に声を掛ける者があった。
宝石店の店主だ。
目の色を変えて巨大か宝石を凝視している。
いくらでも金を出す と言われたが現金には変えられないルールであると説明する青年。
他にも物々交換がいいことや幸せになりたい旨を簡単に伝えた。
物々交換をしたいと青年に言われた店主はびっくり仰天。
しかも幸せになれる物と言われ悩む。
結局はそれに見合うものがなく交渉は決裂した。
その後もありとあらゆる人物と物々交換の交渉を青年に持ちかけたが いずれも決裂していった。
わらしべ長者 神レベルは交換難度も神レベルなんだなと青年はぼんやりと考えた。
そんな生活を何日も繰り返し 町ではすっかりゾンビとして有名になっていたある日、転機が訪れた。
儚くも可憐な女性と出会ったのだ。
青年はどうせ巨大な宝石目当てだろうと思っていたがそうではなかった。
ひたむきに町中を歩く青年の姿に好意を寄せたのだ。
かくしてふたりは付き合うことになった。
青年は わらしべ長者をしなくても幸せになれたじゃないか、と思っていた矢先に彼女に重い病気が見つかった。
その病気は現代の医学ではどうしようもなく 延命にも巨額の資金が必要だった。
青年は絶望した。
巨大な宝石を現金に変えて最先端の医療を受けさせたいと願うがルールがそれを阻む。
彼女の容態は日を追うごとに悪化した。
そしてついに 医者から今夜が峠でしょうと宣告された。
青年は考えた。
この巨大な宝石と彼女の病気を物々交換出来ないだろうかと。
彼女が死なないことが自分の幸せだと。
物と物ではないが、わらしべ長者 神レベルなら可能なはずだ。
青年は病室で巨大な宝石を彼女の枕元に置き こう囁いた。
「この宝石と君の病気を物々交換してくれ」
すると彼女の顔色はみるみると良くなっていった。
すぐに医者を呼び診てもらうと 奇跡としか言いようがない程の回復だと言われた。
さすがはわらしべ長者 神レベルだ。
青年は神様に感謝し、涙を流して喜んだ。
しかし病魔は容赦なく青年を襲う。
青年はその場で崩れ落ちた。
その激痛、苦痛たるや筆舌に尽くしがたいものだった。
一度は感じた幸福感もこの激痛と苦痛に上書きされて後悔の念が湧いてきていた。
こんなに辛いなんて…
そして青年は絶命した。
が、青年は立ち上がった。
それに痛みも苦痛もない。
これは神様の奇跡か。
青年はそう思った。
しかし医者が診察したところ心臓は動いていなかった。
身体は動いてるがそれだけだ。
青年は本当にゾンビになってしまったのだ。
死の間際に絶望し 幸せではなかったことで わらしべ長者 神レベルのルールが適応され、わらしべ長者が続行されたのだ。
そんなこととは知らない青年は喜んだ。
これでまた彼女と幸せな生活を送ることが出来る。
こんどこそ離さないぞ。
そして回復した彼女と熱い抱擁を交わし 心の底から幸せをかみしめたその瞬間。
青年は死んだ。
