アマノ文筆クラブ 『邪道な僕さ』
ロッキーを観まくった。
同じ色のスウェットを着て、赤いバンダナを巻いて、家で生卵をひとつだけ無理して飲み込んで、町中を走り出す。ロッキーのように、町の人達の声援はない。
神社の境内に続く階段をゆっくりと歩いて登り、登りきったところで歓喜の雄叫びを上げる。ひと気のない境内なので、心置きなく。
近所に精肉工場は無いので、自宅の庭に干されていた洗濯物をサンドバッグにして、パンチを打ち込む。手応えの無さハンパない。
車のタイヤは調達出来なかったので、妹の補助輪付き自転車にロープを繋いで家の庭を引いて歩いたり、持ち上げてみたり。
縄跳びは二重跳びを連続2回。
そして、シャドーボクシング。
昨日、近所の公園で、妹をイジメている少年三人組を見た。
僕よりは年下だが妹よりは年上の、なかなかわんぱくそうな奴らだ。
非力な僕が彼らと対等に渡り合うには、まずは強いセルフイメージを持つことが大切だと思った。
強くなって、妹を守れる兄であると自分に信じ込ませるんだ。
ロッキーは劇中で言う。
「もし、最終ラウンドが終わってゴングが鳴っても俺がリングの上に立っていたら、俺は人生で初めてその辺のゴロツキじゃないってことを証明できるんだ」
僕だって、相手に勝てる自信があるわけじゃないけど、その場から逃げずに立ち続ければ、妹を守ることだって、こんな自分に自信を持つことだって出来るかもしれない。それを証明したい。
だから今はロッキーになりきって、このトレーニングの真似事を続けるだけの邪道な僕さ。
もっと厳しいトレーニングが必要だって思うけど、体力のない僕に出来るのはこれくらいが限界。
そんなある日、またあの公園で、あいつらと妹を見かけた。
まだ、トレーニングの成果は出ていない。
だけど、少年の一人が妹の頭を小突くのを見た途端、僕の中のロッキーが雄叫びを上げた。
そして、心のゴングが鳴り響いた。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
