見出し画像

アマノ文筆クラブ 『ロマンスが足りない』

結婚25年目。
ロマンスって何?
物語の中になら、それなりに妄想してそれっぽいのを描くことも出来そうだが、現実の暮らしの中でロマンスなんて、ね。
過去にはあったのかな。
あったような気もするけど、思い出してみても、それが本当に自分達の記憶なのかすら怪しい。
何かのドラマで見た光景だったりして。

先日、妻が推しのサイン会に向かった。
はいはい、行ってらっしゃいで見送ったが、二時間ほど過ぎた頃に妻から着信。
受話器から泣きそうな声が聞こえる。
なんでも、サイン会に参加するにはマイナンバーカードが必要なのに、どこを探してもないと言う。
電話をしている私の目の前のテーブルに、ポツンと彼女のカードは置かれていた。
見つからないに決まってる。
で、なんとか今すぐにそれを持って自分のところまで来てくれないか、と。
自分で取りに戻っては、往復となり絶対に間に合わない。
さんざん謝られて、是が非でもとお願いされた。
なんてったって、推しと目の前で会えるサイン会だ。
そりゃこの機会を逃したくはないだろう。
気持ちは分かる。

だけど、私にしてみれば、なんだか複雑な感情だった。
行って渡してとんぼ返り?とか、そこまでして会いたい?とか。
……いや、ぶっちゃけてしまえば、
「なんで他の男に会いに行くための手助けを俺がしなきゃいけないの?」
だったと思う。
そんな気持ちがまだ自分に残っていたことが意外だったが。

そんな思いに駆られながら、慌てて身支度を整え電車に乗る。
一人でとんぼ返りは寂しいので、娘を説得して連れてゆく。
母親の危機だ。無視するわけにもいかないだろう。
それでも間に合うかギリギリな状況だったが、電車は個人都合でスピードを上げてはくれない。
気持ちだけ急いだところでどうにもならないので、noteに投稿された面白い作品をたくさん読んだりして、焦りを紛らわせた。

そして、待ち合わせの駅に到着。
妻は改札で待っていた。
心底ホッとした顔で、
「ありがとう。間に合いそうだよ。ホント助かった」
と言って去っていった。
そのまま帰るのも空しいので、娘を連れて近くのショッピングモールに行き、カフェでお茶してスイーツを食べる。
期せずして娘との都内デートを楽しんだ。
本来なら、家でゴロゴロしてるだけの休日だったのに。

夕暮れの電車で家路を辿る。
改札で待っていた妻。
なんだか少し、あの頃を思い出した。
ロマンスなんかじゃないけど、二人がまだ、恋人同士だった頃。
駅で待ち合わせして、二人だけの時間を過ごしていた頃。
そんな時代があったなと。

そして妻は、今日も元気に推し活中。
ロマンスは足りないまま、まあ、そんな毎日でも、家族が元気なら、それでいいやと思える今日この頃。

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。

いいなと思ったら応援しよう!