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せりふ三題噺 『牛丼を頼んだ金髪の若者が、デッキチェアでリラックス』

金髪の若者が入店して、
「牛丼ひとつ。ねぎ多めで」
注文したかと思うと、持参のデッキチェアを店内に広げて、身を預ける。
「お客さん、困りますよ。店内でそんなもの使われては」
「俺、待つの嫌いなんだよ。せめてゆったり座らせてくれ」
「いやいや、他のお客さんもいますから。そんな姿勢で牛丼食べるんですか?」
「牛丼できたらカウンターに移るって。だから早く作って」

お題は早々にクリアしたが、面倒な客は後を絶たない。
牛丼作る時間も待てないってどんな持病だよ。
それなら、もっとゆったり座って待てるお店が他にあるだろっての。
まあ、お客様であることには違いないから、誠心誠意真心こめて牛丼作らせてもらいますけど。
それまで、奇異な目にさらされながらチェアに身を沈めて待っててください。
目を閉じて、波の音でも感じながら。

「お客さん、牛丼できましたよ。カウンターに座ってください」
「はーい。ありがとね。このデッキチェアさ、持って帰るの大変だから、この店で使ってよ。店員さんの休憩時とかさ」
「いやいやいや、ちゃんと持ち帰ってください。置いていかれては困ります」
「そう?折りたたみだし、どっか片隅に置いておけば役に立つと思うんだけど。……まあいいや、いただきます」

まったく、ホントに悪気がないんだな。
一番厄介なタイプじゃないか。
まあ、おとなしくカウンター席に座ってくれたし、今のうちにデッキチェアを畳んどいてやろうかな。
入り口横で邪魔になってるしな。

そこに新たに入ってきた客が、満席の店内を見渡し、そこにあるデッキチェアに気付く。
「……え?ここで待ってていいの?」
「いやそれは……」
「ああ、いいっすよ!どうぞ自由に使ってください!」
背後からあの金髪の声が飛ぶ。
「こりゃイイや。腰痛めてて、立って待つのはツラくてさ」
彼はまるで、温泉にでも浸かるような至福の表情でチェアに体を沈める。
ホントはそれ、腰痛には良くないんじゃないのかな。

でもまあ、お客さんの待ち時間が改善されるなら悪くないか。
ウチの店には、ファミレスみたいな待合席も無いし。
立ち並んでこちらを凝視されると、急かされてるみたいでキツイんだよな。
見ると、金髪は牛丼を食べ終わり、デッキチェアでリラックスするお客さんを満足そうに見つめている。
何なんだ、このシチュエーションは?
金髪が言う。
「店員さん、ここの牛丼、ホントにねぎ多めで美味かったよ。ごちそーさん」
デッキチェアの客が言う。
「店員さん、このチェア、ゆったりとスマホがイジれてサイコーだよ。ありがとね」

この店で働いて五年。
こんな温和な空気に包まれたのは初めてかもしれない。
何しろ回転の速い店だ。
次から次へと客が流れてゆく。
まあたまには、今日みたいに変わったお客さんに翻弄される日があってもいいかな。
それも仕事の醍醐味ってやつか。

結局、金髪はデッキチェアを置いていった。
そしてそれは、店長の一声で即日撤去となった。
粗大ゴミとしてもすぐには捨てられず、結果、今は我が家のリビングに鎮座している。
試しに座ってスマホをイジってみた。
チルアウトの音楽を流して、noteで手頃な掌編小説を読んでみる。

……癒される。
あの金髪、快適な過ごし方をとことん追求してるんだな。
悪い生き方じゃないかもな。
まあ、他人に迷惑をかけない程度に、店長の逆鱗に触れない程度にして、またのご来店をお待ちしています。

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。

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