風まかせ文芸部 『卒業』
「卒業したらさ、俺達、会わなくなっちゃうのかな、やっぱり」
「やっぱり、って何だよ。別に遠くに行くわけじゃないんだから、会わないことないだろ」
「でもさ、お互いの進む道が違うとさ、やっぱ疎遠になるって聞くよ。お前は進学、俺は就職。生活スタイルも変わっちゃうだろ」
「そりゃ変わるけど、会いたい時は、連絡して都合合わせればいいだけじゃん」
「連絡しようって気持ち、会いたいって気持ちは変わらないかな?」
「そんなの……分かんないけど、そう思ったら行動に移せばいいだけで……」
「どちらか一方だけがその気持ち持っちゃうとツライよな。今まではそんなこと、考えたこともなかったけど」
「どうしたんだよお前。なにナーバスになってんの?」
「卒業したくないんだよ。お前との三年間が楽しすぎた。こんな毎日を過ごせるのは、もう終わりなんだなって」
「分かんないけど、新しい出会いとかさ、何かが変わるかもしんないし、変わらずに続くことだってある。それはこれからの話だから、すべて俺達次第なんじゃないのかな」
「……まあ、そうか。未来がどうなるかなんて分かんないもんな。今悩んでも仕方ないか」
「そーだよ。分かってることは、俺とお前は親友だってことだろ。その関係は変わらないって。会う会わない以前にな」
そして……ほとんど会わなくなった。
あいつは大学で友達も増えて、その中には彼女と呼べるような関係の女の子もいるという。
あいつが SNS で近況を報告してくれた。
あいつは俺と違って人当たりがイイからな。
どこに行ってもうまくやれるよな。
あいつと一緒にいたら、俺も少しはそうなれるかと思ったけど、叶わなかったな。
俺の仕事だって順調だ。
勉強なんかより、全然こっちの方が向いてる。
現場での力仕事だけど、人に褒められることもあるし、先輩達も気のイイ人ばかりだ。
だけどなんか、心の奥の方で、寂しさとか切なさみたいな感情が凝り固まってて消えない。
何かが終わってしまったような感覚。
もう、あの頃には戻れないんだな、と、足場を組みながら一人思う。
駅のホーム。
偶然あいつに会った。
あいつは、大学の友達と数人で歩いてて、彼女らしき女の子も隣に連れていた。
思わず顔を背けたが、あいつは俺を見つけて走り寄ってくる。
「おい、久し振りだな!何だ?買い物か?」
「あ、ああ、久し振り。ちょっと野暮用でさ」
「そっか。また、連絡するからさ、どっかで会おうぜ。仕事の休みはいつ?」
畳み掛けるように話すあいつの後ろで、友達や彼女が不思議そうに俺を見ている。
いたたまれなくなって、
「また今度、俺の方から連絡するよ。ほら、電車が来るからさ」
そう言ってあいつに背を向けた。
ちょうどそこに俺の乗る電車がやって来て、逃げるように俺は乗り込み、反対方向の電車を待つあいつらから遠ざかっていく。
その夜、あいつの SNS に新しい投稿があった。
「今日、駅のホームで親友に会った。俺の高校三年間をめちゃくちゃ楽しいものにしてくれた親友だ。生活が変わってしばらく会ってなかったけど、今日顔を見たらまたあいつと遊びたくなった。だから連絡してみようかな。会わなかった時間にあったこと、話したいことも積もり積もってるし」
あいつは変わってないな。
どこにいたって、あいつのまんまだ。
そのまんまでいい。
変わるべきなのは、俺の方なんだと思う。
今までの自分から卒業すべきなんだろう。
俺の方から連絡するって言ったのに、あいつからの誘いを待つのはカッコ悪い。
俺達は、会わなくたってその関係は何も変わっていないんだ。
あの頃と同じように、どうせお前、暇だろ?なノリで連絡してみよう。
断られたっていい。
そんなことで、俺達の関係は終わったりしないんだから。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
