せりふ三題噺 『あの子の名前』
■セリフ
「で、感想は?」
■三題
・傘
・グミ
・地平線
心に雨が降り続けていた。
傘の持ち合わせはなく、ただびしょ濡れになってゆく。
俺の目の前で、小さな女の子が転んだ。
その子は泣きながら、母親のもとへと走る。
母親は娘を抱きしめ、あやし、立ち上がって俺の方に歩いてくる。
そして、俺の目の前までやってきて、言う。
「で、感想は?自分にこんな年の娘がいたことを知って、どんな気持ちなの?」
母親に、あの頃の面影はあまり残っていない。
五年前の、面影。
「なんで……言わなかったんだよ。別れたって、連絡は出来ただろ」
「……なんだろね。私の意地みたいなもんかな。もうあなたには頼れないっていう」
「そーゆー問題じゃないだろ。俺はいつだって認知したよ。明らかに俺の子なんだったら……」
「……そこを疑われるのも嫌だったのかな。よく分かんない」
「分かんないって……」
女の子が、母親に抱かれながら、俺を指差して、言う。
「……誰?」
母親が……美咲が、俺を見つめながら答える。
「この人はね、ママと里穂の大切な人。大切だった……人かな」
「やめろよ、その言い方」
「何も間違ってないでしょ?特にこの娘にとってはさ」
女の子が、自分のポケットを探る。
そして、袋に包まれたグミを取り出した。
「あげる」
「えっ……?」
「ママがね、大切な人には自分の大切なものをあげなさいって」
美咲を見ると、満足そうに頷いている。
あの頃の面影が、少しだけ蘇った。
「里穂ちゃんっていうんだ。イイ名前だね」
「うん。ママが付けてくれたの。好きな漢字なんだって」
「ふーん。……どっちの字だろ?」
以前、美咲と来たことのあるカフェで、三人でお茶をする。
コーヒーと紅茶、そしていちごパフェ。
「それで?あなたの夢はどうなったの?凱旋って感じでもないみたいだけど」
「……全部、捨ててきたよ。てゆーか、こっちが見捨てられたのかな」
「夢を叶えて、デッカイ花火を打ち上げる!とか言ってたのにね」
「……何にも見えてなかったよな、あの頃。大切なものも、何もかも」
「そーなんだ。……それで?大切なものを探しに、この町に戻ってきたの?」
「……ここんとこ、ずっと心の中で雨が降りっぱなしでさ。止まないし、傘もないし。そろそろ、陽のあたるところに出たくてさ、そう考えたら、ここしか浮かばなかったんだよ」
「ふーん。この町に何があるって言うんだろ?……もしかして、私達?」
「さあ……でも、今、俺の目の前に、太陽があるのは確かだよ。なんか、暗闇の世界にいて、地平線から朝日が昇ってきた感じ」
「……ん?それは里穂のこと?」
「……そうかも。それと君」
「ずいぶん都合がイイね。ずっと留守にして、母子家庭だったのに」
「分かってる。でも、まだやり直せそうな光を見つけたんだ。この子の名前に」
「……里穂?……ああ、そーゆーこと?」
「うん、思い違いだとしても、それだけが俺の希望であり、太陽だから」
「まあ……間違いじゃないよ。そーゆーことだよ、優里」
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
