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風まかせ文芸部 『花見』

「ウチでお花見しない?」
彼女に誘われた。
「桜、見れるの?」と聞くと、
「ベランダからね。綺麗だよ」と言う。
「ベランダでお花見するの?」
「そうだよ。なんか変?」
「いや……まあ、花見には違いないか」 
「そうだよ。公園で宴会するお花見の方がおかしいと思わない?」
いや、そんなことは……ないけど。

彼女のマンションのベランダ。
二人並んで手すりに腕を乗せ、三階下の中庭を見下ろす。
確かに、一本の立派な桜の木が満開の状態だ。
「でもこれは……なんか違うような……」
「どうして?こんなに綺麗なのに」
「んー、確かにそうなんだけど、風情がないっていうか……」
「お酒飲んで大騒ぎするのが風情なの?」
「そうじゃないけど、せめてさ、ベランダじゃなくて、中庭に降りようよ。なんか、ポテチとか持ってさ」
「どーして桜を見るのにお菓子が必要なの?」
「あー、じゃあ、手ぶらでいいから場所を変えない?」
「いいけど、この季節、中庭は入れないようになってるの。ドアが施錠されててさ」
「えぇー何でこの季節に?せっかくあんな綺麗な桜が咲いてて、これ、マンションの住人の特権じゃん。もったいない」
「……去年までは入れたんだよ。だけど、誰かが忍び込んでね、夜中に大宴会。次の日の朝には、中庭はゴミだらけで、桜の木の枝が折られてそこら中に散らばってて……」
「えぇっ……マジ?」
「私ね、この季節はあの桜を見るのが楽しみで、その日の朝も起きてすぐにここから見下ろしたんだ。そしたら、そんな状態。もう、ショックでさ、その日学校休んじゃったもん」
「それで……中庭には入れないようにしたんだね。いったい誰がそんなこと……」
「花はね、人のために咲くんじゃないと思うの。自分のために咲いてるんだよ。誰かに見てもらって、綺麗だとか言われたくて咲いてるんじゃない。ましてや、誰かを浮かれさせるための道具でもないよね」
「うん……そだね……」
「でも、私達はこの綺麗な桜を見たいじゃない?見ることは、桜も受け入れてくれると思うの」
「そして君は、ここから見るこの桜が好きなんだね」
「うん。幼い頃からずっと見てきた姿だからかな。それをあなたにも見てもらいたかったのかも」
「そっか……ありがとう。もう少しここにいようか。確かにここは、特等席だもんね」
「でしょ?お茶でも入れてくるね」

桜は咲き乱れ、人の心を浮つかせる。
だからこそ、ともすれば粗雑になる向き合い方を考え直さなければならないのではないだろうか。
来年もまた、このベランダから彼女と桜が見れるように。

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。

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