3つのお題に空想のひらめきを 『心のタイムマシン』
🎈お題①:「レコード屋の午後」
あの娘、また来てる。
あのアルバム、この前も手に取ってずっと見つめてたんだよな。
買っていくのかなーとか思ったけど、また棚に戻して。
今日は、どうなんだろ?
「あのー、すみません。このレコード、試聴していいですか?」
「試聴ですか?ええもちろん。そちらにプレーヤーがありますので、ご自由にどうぞ」
「ありがとうございます。目当ての歌が入ってるかどうか、知りたくて」
好きなグループサウンズなら、アルバムに入っている歌も把握していそうなもんだが、タイトルも分からないってことか。
たまたまどこかで聴いて気に入ったのかな。
「あ、プレーヤーの使い方、分かります?説明しましょうか?」
「いえ、大丈夫です。前の彼氏がオーディオ好きで、いろいろ触らせてもらったんで」
ほう、オーディオ好きの彼氏か。
なら、それは彼との思い出の歌?
アルバムの中の一曲が、二人の幸せな日々を奏でるのか。
なんか、いいね♪
彼女はアルバムを聴き始めた。
針を操作して、曲を飛ばしてゆく。
本当に扱いには慣れているようだ。
そして、お目当ての歌に辿り着いたのか、そっと針から手を離した。
ギターが奏でるバラード。
切なく、聴き入ってしまうようなメロディ。
確かこれは、シングルカットもされていないような、アルバムの中の一曲。
彼女は、じっとレコード盤を見つめていた。
その肩が、小刻みに震えている。
……そうか。
奏でるのは、幸せな日々とは限らなかったな。
事情は分からないが、彼のもとで聴くことの出来なくなったこの歌を、悩んだ末に手に入れたくなったのだろう。
彼女が、アルバムをケースに戻し、私のいるレジへとやって来る。
「お買い上げですか?」
「はい。あの頃好きだった歌がやっと見つかりました」
「そうですか。それは良かった。レコードは心のタイムマシンですからね。きっといつだって、当時の気持ちを思い出させてくれますよ」
棚に書いてあった売り文句をそのまま言ってみた。
彼女はそれに気付かなかったようだ。
「ホントですね。楽しくても嬉しくても悲しくても、あの頃に戻れるのは、歌の力なんですよね。確かに心のタイムマシンです」
購入したアルバムを大事そうに抱えて、彼女は店を出ていった。
入口の扉の前では、飼い猫のムゥが気持ち良さそうに眠っている。
一彼女に幸あれ一
遠ざかる背中を見送りながら、不意にそんなことを思った。

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
