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せりふ三題噺 『屋上で春一番を待ちながら、ローファーを見下ろしている』

職場のビルの屋上から見下ろした街は、見飽きるほど何も変わらない。
新しいビルが建つこともなく、古いビルが取り壊されることもない。
退屈な街だ。
だが、街向こうに見える川沿いには、桜並木が連なり、春一番が吹き荒れるのを待って、一斉に開花する。
季節を越えてそこだけが街を変化させる。
もうすぐ。もうすぐだ。

「ずるいね。こんなところで一人でサボってるの?」
同期の茜さんが、屋上の扉を開けて立っている。
「サボってるんじゃないよ。今度のプレゼンのシミュレーションしとこうかと思って」
下手な言い訳で何とか誤魔化そうと、眼下の街に向かって何かをアピールするように両手を広げる。
「何だっけ?新商品のローファー?当たりそうなの?」
僕は自分の足もとに視線を移す。
「僕は気に入ってるけどね。世間が受け入れてくれるかどうかは、やってみなくちゃ分からないよ」
「ふーん。でももしかしたら、世界を変えるようなヒット商品になるかもね。そんな靴がこの街から生まれるの。なんか夢があるよね」
僕は茜さんの顔をまじまじと見る。
冗談で言っているのかと思ったら、真顔だった。

世界を変える?
この街が生み出した靴が?
この街自体が何も変わらないのに?
そんなことが、本当に起こりうるのだろうか。
春一番が吹いて、桜並木が満開になるよりも鮮やかに、この世界が彩られてゆく。
たった一足のローファーの誕生で。

そんな夢物語を描いていたら、茜さんが僕の顔を覗き込んできた。
「なんだか嬉しそうな顔してるね。新田くんにだけ一足先に春が来たのかな?」
「春は……まだだよ」
「そっか。でも確実にもうすぐやって来るよね。ほら、あの桜並木。この街全体の雰囲気を変えてくれるよ。もうすぐだよ」
僕は視線を足もとから眼下の街へ。
そっか。街全体を変えてくれるのか、あの桜並木が。
そんな景色を見れるのも、もうすぐだ。悪くないな。

僕は視線を足もとに戻した。
この靴も悪くない。もはやお気に入りのローファーだ。
自画自賛でしかないが、自分を誇れるモノがあることは何よりも嬉しい。

「茜さん」
「……ん?何?」
「春が来たら、あの河原で花見しようよ。皆を呼んでもいいし、二人だけでもいい」
「……何それ。私、告白されてる?」
「してない。花見に誘ってるだけ」
「言い方を考えてよね。紛らわしいんだよ。恥かいたじゃん」
「でも、茜さんと花見に行きたいのはホントだよ。茜さんと一緒に行きたい」
「やっぱり……告白されてない?」
「じゃあそれでもいいや。本番はまだ後に取っておくけど」
「ちょっとなんか、扱いが雑じゃない?」
「そんなことないよ。思いのままに行動してるだけ」
「ホント……ずるいよね、君」

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。

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