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せりふ三題噺 『温泉旅館でパジャマでいたら、頬骨が気になる』

「え?パジャマ持参なの?」
「うん。何か変?」
「いや、温泉旅館だからさ。浴衣があるじゃんね」
「でも、寝る時はさ、いつもの慣れた格好の方が寝付きがイイんだもん。浴衣を着て寝なきゃいけないってわけじゃないでしょ?」
「まあそうだけど……せっかく君の浴衣姿が……まあ、いいか。とりあえずさ、お風呂行こ」

ゆっくりと温泉に浸かって、大広間に移動しての食事。
さすがに彼女は浴衣に着替えてきた。
寝る時はパジャマでも、ここで彼女の浴衣姿を拝めたんなら良しとしよう。
海の幸がふんだんに使われた豪華な食事に満足して、部屋に戻る。

波の音と虫の声。
どちらも、リラックスを与えてくれる。
彼女と初めての旅行先は、海と山に挟まれた小さな温泉宿。
いろんな感情や欲望が渦巻く中、夜になって彼女がパジャマに着替えたことで、何となくアットホームな雰囲気に包まれる。
……これはこれでいいんじゃないのかな。

「いいね。落ち着くね。それじゃ、何の話しよっか。暴露大会でもする?」
「何それ。お互いの秘密を暴露するの?」
「そう。例えば……私ね、整形してるの」
「……知ってるよ。頬骨削ったんでしょ」
「そりゃ知ってるよね。あなたの病院であなたにやってもらったんだもんね。あの日さ、経過観察のために一泊入院したでしょ。その時も、このパジャマ着てたの覚えてる?」
「そーなの?……んー、覚えてないや」
「あの夜、病室に来たあなたが言ったんだよ。『可愛いね、そのパジャマ』って」
「そ、そーだったっけ。全然覚えてない。……ん?もしかして、それで今回もそのパジャマを?」
「まあ、それもあるね。だけど私、ホントにこのパジャマじゃないと眠れないの。だから入院の時もコレだったし。その上、あなたにあんな風に褒められたんだよ。もう、これしか勝たんのよ」

「なるほどね。……じゃあ、僕の番かな。秘密を暴露」
「うん。何かあるの?」
「えーとね、大したことじゃないんだけど、君はさ、頬骨が目立つことを気にしてウチの病院に来たんだと思うけど、僕の好みとしては、そのままの君がいいなと思ったんだ。だからね、実はあんまりイジってない。ヒアルロン酸の少量注入だけで、削ったりしてないんだよ」
「……え?だって手術……」
「注射はしたけどね。局部麻酔だったのに、君はぐっすり眠ってたみたいで」
「……えーと」
「お金だって、注射の分しかもらってないよ。あとは、メイクの仕方を教えただろ。あれ、かなり効果あるんだよ」
「そーなんだ……私、騙されたの?」
「騙してなんかないって。医師として、君にとって一番合理的な処置を施しただけだよ。それにさ、君は言ってただろ。自分の好きな人が一番好きでいてくれる姿でいたい、って」
「それが……今の姿ってこと?」
「そう。そのままの君。これしか勝たんのよ。」

波の音と虫の声に包まれて、温泉宿の夜は更けてゆく。
彼女との初めての旅行。
彼女が着慣れたパジャマを愛するように、僕はそのままの彼女を愛してしまった。
整形外科医としては、あるまじき感情なのかもしれないが、彼女の提案のおかげで、こうして胸のつかえを解消することが出来た。

明日は彼女を、海が見下ろせる高台に連れて行こう。
そこから見る景色は、何の手も加えられず自然のままで、ずっと変わらない美しい姿を見せてくれるだろう。

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。

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