アマノ文筆クラブ 『去る者は追わず』
僕は猫。
部屋で退屈していたら、突然獲物が現れた。
狂喜乱舞して追いかける。
これを仕留めなければ、猫の名がすたるってもんだ。
ちなみに、僕の名前はジャロ。
アメショの男の子だ。
部屋のいろんなものに衝突しながら追いかける。
これは、後で飼い主に怒られるパターンだが、今は外出していて留守だ。
先のことなんて考えられない。
今はただ、視線の先にいるあの獲物の姿だけを捉え、猪突猛進で飛びかからんとする。
届きそうで、届かない。
しばらくすると、獲物が、少しだけ開いていた窓からベランダに出た。
そうか、ここから入ってきたのか、あの獲物は。
もちろん僕も、獲物を追ってベランダへ飛び出したところで、
「おい、やめとけ。去る者は追わず、だ」
そう言って、僕の後ろ足を誰かがつかんだ。
気付けば、僕の体はベランダの外に半分飛び出している。
ここはマンションの12階。
獲物は僕から逃げきって、羽を羽ばたかせて飛んでいった。
しばらくして、飼い主達が帰ってきた。
皆、黒尽くめ。黒猫みたいな格好だ。
部屋の惨状を認め、案の定僕を叱りつける。
でも、なんか皆、悲しそうだ。
僕の大好きなお姉ちゃんが泣きながら、僕が倒した写真立てをもとに戻す。
そこには、この家のお父さんの笑顔。
あれ?そーいえば、お父さんの姿が見えない。
あれ?さっき僕の足をつかんでくれたのは?
確かに、お父さんの声だったのに。
「ほらな。これでお前までいなくなったら、皆がどれだけ悲しむか。俺の分も、そばにいてやってくれよな」
あ、お父さん。そんなところにいたんだ。
あれ?どうしてベランダの外に浮いてるの?
お父さんだけ、黒猫スタイルじゃないんだね。
「じゃあな、皆を頼んだぞ。この家の雄はお前しかいなくなっちゃったからな。お前がこの家を守ってくれ」
え?お父さん、どこ行くの?
ちょっと待って。どうしてさっきの獲物みたいに空を飛べるの?
「言っただろ、ジャロ。去る者は追わず、だ。もう、危ないことはすんなよ」
お父さんは消えていった。
僕は窓の外を見つめながら、なんだかよく分からないけど、お父さんにサヨナラを言った。
そんな僕のところに、大好きなお姉ちゃんがやってきて、僕をギュッって抱きしめた。
温かい。
僕はなんだか眠くなって、喉をゴロゴロ鳴らしながら、目を閉じた。
