アマノ文筆クラブ 『おしこんだりもしたけれど、私は能天気です』
恋人と別れた次の日、私はスマホのスケジュールアプリに無理やりな予定を押し込んだ。
コスメを買いに行く、とか、パスタを食べに行く、とか、別に気が向いたらすればいいような用事で休日を埋めた。
そうでもしなければ、一人ぼっちのこの部屋に打ちひしがれそうだったから。
とにかく何かをすることで、少しでも恋人のことを忘れたかったから。
ほんとに好きだったから。
終わるなんて、思ってもいなかったから。
その夜、妹から電話があった。
唐突に、妹からの誘い。
「ジム通い、しない?」
「……ジム?」
「そう、ジム。私と一緒に通うの」
「なんで……急にどうしたの?」
「なんでって、ジムに通う理由は人それぞれだけど、間違いなく健康にイイし、生活レベル上がると思うし、ストレスだって発散できるでしょ」
「そうだけど……なんで一緒に?」
「えっ……だって、お姉ちゃん今、一人でそんなこと始める元気ないでしょ?」
「ちょっと待って。なんで知ってるの?話してないよね?」
「姉のピンチぐらいバビっと来るって。もしかしたら、以心伝心してるのかもしれないよ、私達」
幼い頃から一番の相談相手だったな。
私のことを一番よく分かってくれてて、だからこそぶつかることもあったけど、その度に絆は深くなっていったと思う。
本気で真正面から想いを伝えたから。
最近では、その相手が恋人に移行していたけど、ぶつかり合ったあげくに彼は去っていった。
妹とはもう26年間、離れずに距離を保っている。
ホントに以心伝心してるのかもな。
そう思うことだってある。今回のように。
「あなたは彼と仲良くやってるんじゃないの?悪い噂は聞かないけど」
「うん。私の彼は最高だよ。だから、お姉ちゃんを励ましてあげなって」
「彼がそう言ったの?なんか、一人だけ惨めじゃん」
「そうかもしれないけど、それはお姉ちゃんのせいじゃないでしょ」
「私のせいじゃ……ないのかな」
「知らないけど。てゆーか、そんなことどうでもいいじゃない。今はさ、このピンチを乗り切る過ごし方を考えればいいんだよ。次に進むために。そうでしょ?」
「うん。まあ……そうか」
「能天気でいいんだってば。悲しくて切ないのは当然だけど、お姉ちゃんの大切なものはそれだけじゃないでしょ。今は見当たらないなら、一緒に見つけに行こうよ」
「あんた……人を諭すのが上手くなったね」
「えぇー、お姉ちゃんにもこんなこと、よく言われてた気がするけどな。だからずっと感謝してる」
姉妹は、近すぎて遠い。
そこにいるのが当たり前で、気付いたら距離を置いて生活してたりする。
あまり意識せず、気を遣うこともない。
だけど、こんな時にその存在を眩しいほどに知らしめてくれる。
まったく、いてくれてホントに良かった。
「じゃあ、通うんなら私は本気モード出すから、ちゃんと付き合ってね」
「いいよ。お姉ちゃんより私の方が若いんだから。」
「ふたつしか変わらないじゃない。ほぼ同い年だよ」
「二年あったらね。失恋の悲しみだってきっと癒やせちゃうよ。長いよ」
「別に、生まれた時から失恋してたわけじゃないし。それに、立ち直るのに二年なんていらないよ。あんたがいれば、一週間で元気が出そう」
「……ホント、能天気な姉だね。」
「あんたがそうさせてるんでしょうが」
そうしてくれてるんだよ、ありがとう。
あなたという存在がある限り、無理に予定を押し込んだりもしたけれど、私は能天気でいられます。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
