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pico3103
『家庭菜園と仮定才媛』1:散歩道と確率王子
『家庭菜園と仮定才媛』
1:散歩道と確率王子
午後四時、風は少しだけ「どちらにも振れない方向」から吹いていた。
それは気象学的には説明できないが、彼の周囲では常にそうだった。
「今日、この道で君と出会う確率は……」
隣を歩く彼は、『確率王子』と呼ばれている。
王子といっても冠はない。
ただ、あらゆる出来事を“確率としてしか語れない”体質を持っていた。
「……三十八パーセントだ」
僕は黙って歩く。
彼の言葉は予言ではない。
計算でもない。
むしろ、世界に対する軽い同意のようなものだった。
「低いのか高いのか、わからないな」
「高い方だよ。散歩道での偶然の遭遇は平均十二パーセントだから」
彼はそう言って、道端の石を軽く蹴る。
石は予測された軌道から、ほんの少しだけ外れて転がった。
「ほらね」
彼は満足げに言う。
まるで世界が、ほんの少しだけ彼の計算に協力したことを喜んでいるようだった。
散歩道は真っ直ぐではない。
左に寄ったり、思い出したように右へ逸れたりする。
「この先、雨が降る確率は?」
「二十四パーセント」
「じゃあ傘は?」
「持っている確率は八十六パーセントだね」
彼は僕の手元を一瞬見て、うなずいた。
その視線は“確認”ではなく、“統計の補強”だった。
やがて空は、ほんの少しだけ曇る。
誰の予測でもない中間の色で、世界が塗り替えられていく。
「ほら」
彼は言う。
「確率が、少しだけ現実に近づいた」
僕は答えない。
散歩道の終わりは、いつも未確定のままだ。
ただ歩くたびに、まだ起きていない出来事が、足音の後ろに静かに増えていく。
