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『家庭菜園と仮定才媛』1:散歩道と確率王子

『家庭菜園と仮定才媛』

1:散歩道と確率王子

​午後四時、風は少しだけ「どちらにも振れない方向」から吹いていた。
それは気象学的には説明できないが、彼の周囲では常にそうだった。
​「今日、この道で君と出会う確率は……」
​隣を歩く彼は、『確率王子』と呼ばれている。
王子といっても冠はない。
ただ、あらゆる出来事を“確率としてしか語れない”体質を持っていた。
​「……三十八パーセントだ」
​僕は黙って歩く。
彼の言葉は予言ではない。
計算でもない。
むしろ、世界に対する軽い同意のようなものだった。
​「低いのか高いのか、わからないな」
​「高い方だよ。散歩道での偶然の遭遇は平均十二パーセントだから」
​彼はそう言って、道端の石を軽く蹴る。
石は予測された軌道から、ほんの少しだけ外れて転がった。
​「ほらね」
​彼は満足げに言う。
まるで世界が、ほんの少しだけ彼の計算に協力したことを喜んでいるようだった。
​散歩道は真っ直ぐではない。
左に寄ったり、思い出したように右へ逸れたりする。
​「この先、雨が降る確率は?」
​「二十四パーセント」
​「じゃあ傘は?」
​「持っている確率は八十六パーセントだね」
​彼は僕の手元を一瞬見て、うなずいた。
その視線は“確認”ではなく、“統計の補強”だった。
​やがて空は、ほんの少しだけ曇る。
誰の予測でもない中間の色で、世界が塗り替えられていく。
​「ほら」
​彼は言う。
​「確率が、少しだけ現実に近づいた」
​僕は答えない。
散歩道の終わりは、いつも未確定のままだ。
​ただ歩くたびに、まだ起きていない出来事が、足音の後ろに静かに増えていく。

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