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『アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリと、納豆の世話』

『アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリと、納豆の世話』
夜だった。
テーブルの上に、小さな皿。
茶色い豆。
白い糸。
男は、それを見ていた。
かなり真剣な顔で。
「……かわいそうだ。」
「何がです。」
「この豆。」
「納豆ですが。」
「だからだ。」
彼は頷いた。
「匂いで嫌われる。糸で警戒される。」
一拍。
「しかし中身は、案外悪くない。」
窓の外に目をやった。
「少し、知り合いに似ている。」
誰のことかは聞かなかった。
彼は箸を持った。
糸が伸びる。
長い。
さらに長い。
「……いい。」
「何がです。」
「切れているようで、切れていない。」
一粒。
沈黙。
もう一粒。
また沈黙。
やがて、静かに笑った。
「分かった。」
「何がです。」
「この豆には名前が必要だ。」
しばらく考える。
かなり考える。
「……ナットー。」
「そのままですね。」
「いい名前だ。」
彼は満足そうだった。
「先生。」
「はい。」
「全部食べるんですよ。」
彼は少し困った顔になった。
「世話をしたものは、食べることになるのか。」
「納豆ですから。」
長い沈黙。
「君は」
と彼は言った。
「君が糸を引いたものに、責任を持たなくてはならない。」
「……先生。」
「何でしょう。」
「今、それを納豆に言いましたか。」
「ええ。」
彼は頷いた。
「私も、納豆も、少し驚いている。」
一粒ずつ、ゆっくりと、食べ始めた。
皿が空になった。
残ったのは、白い糸が一本だけ。
彼はそれを指先に巻いた。
「不思議だ。」
「何がです。」
「たった一皿なのに。」
糸を見る。
「別れが、少し惜しい。」
その夜、窓の外には星が出ていた。
一人の飛行士は、
たった一度だけ世話をした納豆に、
ほんの少しだけ、
情が移ってしまっていた。

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