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『時刻表の健康保険』

『時刻表の健康保険』

時刻表には健康保険がある。
男がそれを知ったのは、駅の掲示板の前だった。
いつもの時刻表に、小さな保険証が挟まっている。
顔写真の欄には、見慣れた数字の列が写っていた。
少し緊張した表情だった。
男は駅員に聞いた。
「時刻表も病気になるんですか」
駅員はうなずいた。
「なりますよ」
当然のような返事だった。
「どんな病気に?」
「遅れを自分のせいだと思い込むんです」
男は少し黙った。
それは大変そうだった。
午前中。
駅の医務室では健康診断が行われていた。
路線図が受付をしている。
整理券は番号順ではなく時刻順に配られる。
その方が落ち着くらしい。
待合室には様々な時刻表が座っていた。
特急の時刻表。
ローカル線の時刻表。
臨時列車専門の時刻表。
みな少し疲れて見える。
毎日たくさんの時間を抱えているのだから無理もない。
午後。
診察が始まった。
医師は古い日時計だった。
長く時間を見てきた経験がある。
「最近どうですか」
「少し先のことを気にしすぎています」
時刻表が答える。
日時計は静かにうなずいた。
よくある症状だった。
「未来は列車の仕事です」
「はい」
「あなたは案内だけで十分です」
時刻表は少し安心したようだった。
夕方。
診察は無事終わった。
保険も継続になったらしい。
掲示板へ戻った時刻表は、どこか肩の力が抜けていた。
数字も読みやすい。
夜。
男が帰宅するため時刻表を見る。
次の列車は七分後。
その数字は以前より穏やかだった。
急がせるでもなく、
引き留めるでもなく、
ただ時間の在りかを教えてくれている。
良い治療だったのだろう。
翌朝。
保険証はなくなっていた。
代わりに小さな紙が挟まっている。
『しばらく様子を見ましょう』
時刻表は、少しだけ未来を気にしなくなっていた。

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