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ribenseijin
『浦島カズマ』
『浦島カズマ』
浦島カズマは、「一致しないもの」にばかり目がいく人だった。
言葉と気持ち。
記憶と事実。
昨日の自分と今日の自分。
それらが少しずつズレているのが見えてしまう。
ある夜。
カズマはコンビニの前に立っていた。
自動ドアは開くのに、
中に入るタイミングだけが合わない。
「ずれてますね。」
と声がした。
亀だった。
植え込みの中から出てくる。
「何が。」
とカズマが言うと、
返事より先に“違和感の位置”が揺れた。
亀はそれを見ている。
「一致です。」
カズマは少し眉をひそめる。
「一致してないから困ってるんです。」
亀は首を振る。
「完全に一致すると、見えなくなります。」
その瞬間、
コンビニのガラスに映る自分が少し遅れる。
現実と反射が、わずかにずれる。
気づくと、
そこはコンビニではなかった。
しかし現実でもなかった。
「ずれの滞在地」だった。
そこに魚がいる。
名札には、
『不一致管理課・差分監視係』
と書いてある。
魚は二つの影を見ている。
「浦島カズマですね。」
「はい。」
「あなたは、揃えようとしすぎます。」
カズマは少し黙る。
「揃わないと気持ち悪い。」
魚は続ける。
「違いは消すものではありません。」
静かな間。
レジの音だけが、少し遅れて響く。
しかし会計は進まない。
亀が言った。
「戻りますか。」
カズマは少し考える。
「戻るって、どっちの状態に。」
亀は答えない。
ただ、ガラスの反射を見ている。
カズマは気づく。
一致とは、到達ではなく一瞬の通過だ。
人はたぶん、
何かを揃えるために生きているのではない。
揃わなさの中で、
それでも立っていられる位置を探すために、
日常を渡っているのかもしれない。
コンビニの灯りだけが、
少しだけ遅れて瞬いていた。
