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valo__427
『浦島氷室』
『浦島氷室』
浦島氷室は、時間がゆっくり固まる場所だった。
入れたものは凍る。
でも、ただ冷たくなるだけではない。
少しだけ「止まる前の動き」が残る。
笑いかけた顔は、笑いかける途中で凍る。
考えかけた言葉は、考えかけのまま保存される。
ある夜。
氷室の中は静かだった。
冷気は音を持たないはずなのに、
なぜか「沈黙の重さ」だけがある。
「まだ動いていますね。」
と声がした。
亀だった。
氷の棚の間に立っている。
足元に霜が広がる。
「何が。」
と氷室が言うように、空気が少し揺れた。
「途中です。」
亀は棚を見ている。
そこには、
凍りかけたままの「さよなら」がある。
完全には固まっていない。
少しだけ揺れている。
「竜宮城へ行きますか。」
「今日は何課。」
「凍結未完課です。」
その瞬間、
棚の一段だけ温度が変わる。
しかし溶けない。
ただ、少しだけ柔らかくなる。
気づくと、
そこは倉庫であり、海の底でもあった。
時間が固まる途中の空間。
そこに魚がいる。
名札には、
『凍結未完課・状態維持係』
と書いてある。
魚は氷を見ている。
「浦島氷室ですね。」
「はい。」
「あなたは、固めすぎます。」
氷室は黙る。
魚は続ける。
「でも、固まらないものは流れてしまいます。」
静かな間。
氷の中で、言葉が一つだけ動く。
まだ凍りきっていない記憶。
亀が言った。
「戻りますか。」
氷室は少し考えた。
「少しだけ溶かしてもいい?」
亀はうなずいた。
「いい解凍です。」
家へ帰る。
扉を開けると、
空気はまだ少し冷たい。
でもその冷たさは、
少しだけ優しかった。
人はたぶん、
過去を止めるために凍らせているのではない。
まだ動いている途中のものを、
壊さないために、
そっと時間ごと閉じ込めているのかもしれない。
氷室の奥で、
何かがゆっくりと、溶けるふりをしていた。
