Bunkamura Production 『愛の乞食』感想・考察など

Bunkamura Production 2025『アリババ』『愛の乞食』10月19日大千穐楽観劇して参りました。

以前は一般的な方よりは多くお芝居を観ていた自分ですが、多忙等でしばらく公演に足を運ぶことが途絶えていました。

今回久し振りの観劇から一週間が経ちますが、自分なりの考察や感想を記したいと思います。
過去に新宿梁山泊や唐組のテント公演の観劇の経験が数回あります。アングラ演劇はじめ小劇場系のお芝居への馴染み具合が、一般の方以上演劇フリーク未満程度の人間の書いた物として御理解下さればと存じます。


この劇の主なモチーフの一つ、
曼珠沙華はお彼岸に咲く花です。
彼岸と此岸、あの世とこの世を
繋ぐようなイメージが付加されています。
今時のダークファンタジー系のコンテンツでもよく出て来ますが、
こういうアングラ演劇での扱い方が
源流の一つなんでしょうね。
そして、曼珠と満州は
語感として掛けてありそうです。

劇の舞台の一つ、豆満江は、
朝鮮と満州との国境の川です。
朝鮮は日本と満州、
あるいは中国との間の存在、
この辺りも掛けてありそうです。

劇全体として、
死者と生者、過去と現代が
交錯して展開していきますが
こうした地理的な対比や境界や交叉点、
曼珠沙華のモチーフは
全部重ね合わせられているのでしょう。

憲兵さんと万寿シャゲの関係は
時空を越えた一途な愛の物語として
描かれている印象ですが
少し強引に別の考察もしてみました。

憲兵は杖をついて白塗りです。
迫力や存在感があって
クールな美形のキャラで
感情を殆ど表にしません。
いくらルックスが良くても
本来なら朝鮮人の少女が日本軍の憲兵に
しかも一度は殺されると思った相手に恋焦がれるというのは
本当は少し変な話です。
極限状況での一目惚れということかも知れませんが
この辺りをちょっと掘り下げてみます。

憲兵は戦争に負けて
中国満州朝鮮から追われゆく日本軍の象徴で滅びや死の象徴でもあるように思います。白塗りと杖と無表情はそのせいではないかと。

海賊達も杖をついてましたが、あれは偽りの姿でした。
戦時下に外地に居た日本人のうちで
悪どく強かに儲けた民間人のイメージで、
まだまだ内地でリアルに生きようとしています。
死ぬつもりは毛頭無いので、
憲兵と違って死のイメージがそぐわないので
それで杖は飽くまでもハッタリで嘘なのでしょう。

憲兵が死と滅びを象徴しているとすれば
彼は生きながら死んでいる状態であり
喪失感と虚無の中にいたと言えそうです。
憲兵こそがジョンシルバーで
圧倒的な存在感で登場するのに
本人は虚無の中にいるから
それを誇ることも無い。
ジョンシルバーは謎の海賊で
本当は誰だかわからないみたいになっているのも当の本人がジョンシルバーでいること自体
虚無の中でどうでもよくなっているからかも知れません。

シャゲが殺されると感じた
憲兵との出会いの場面、
生きることへの渇望に満ちたシャゲに触れた時、
憲兵にとっては、救いに繋がるような
絶望の中に灯った暖かい何かを感じ取った瞬間だったのではないでしょうか。

そんな憲兵の心に灯ったものは
死の意識していたシャゲにとって
予期しなかったもので
本当はシャゲ自身の生へのエネルギーが生み出したものなのに
過酷な体験を生き抜いて来た自分を
受け入れてくれるもの、
自分が生きようとする意思に応えてくれるもの、
万寿シャゲを見つけてくれたものとして
感じ取った瞬間であったのかも知れません。確かに憲兵はあの時
万寿シャゲを見つけていたように思えます。

でも中国満州朝鮮で散々悪行を積んだ挙句に戦争に敗れた日本軍の憲兵が
シャゲとの出会いだけで救われることは無く見出したかに思えた救いの灯は
かりそめの物であったのでは。
憲兵が虚無と絶望の中、
行方が知れなくなったのは
そのせいではなかったかと。

そして時代が戦後に移り
強かに生き抜いた筈の海賊達は小悪党に成り下がり
戦後社会で牙を抜かれ、諍いの中で死んでいく。
生き残っていたのはシャゲ。
いつまでも歳を取らない少女のままの姿なのは
万寿という名に理由が仮託されているのでしょう。
死んでいった海賊達は
既に戦後社会では死んだようにしか生きていなかった。
老いていく筈の、それとも本当は
どこかで死んでいたのかもしれない
シャゲこそが
行方知れずとなった憲兵を待ちながら
誰よりも力強く生きていた。

サラリーマンの田口がシャゲの手を取った時田口は現代を死んだように生きる日本人の寓意だとして
田口の心がシャゲの生きる情熱に魅入られて田口の手が
シャゲの手を掴む 
いやシャゲの手に掴まれて
その熱量に包み込まれることで
死んだように生きる現代人田口は変容する。死んだように生きていた憲兵がそこに蘇るのは
シャゲの想いがあればこそでしょう。

プロジェクターで写される曼珠沙華は
燃え上がる掌のようにも見えます。
シャゲの掌でしょうか。
それでも憲兵は手も姿も白いままで
シャゲはそんな憲兵を航海へ連れて行きます。
憲兵が亡者のようなままであっても
シャゲにとっては構わないのでしょう。
憲兵の中に灯る炎が伴侶なのだから。
その炎は憲兵を救うことのないままに
死を超えて生き続けるシャゲを
万寿シャゲたらしめる。
その行く先は満州、豆満江の向こう。
既にこの世に無い国です。
傀儡国家なのだから
元からあったと言えるのかどうか。
シャゲの行くべき先が
彼岸であり異界であるなら
そんな満州国こそが似つかわしく、
万寿シャゲはその炎を
燃やし続け生き抜いていく。
救われぬまま共に往く憲兵は
現世でも故郷でも無い異界の地で
戦争の惨禍の落とし前を
付けられないなりに付けているつもりでしょうか。
そして
満州に虚実ないまぜの魔境めいたイメージを重ねる描写についても 、おそらく唐さんの演劇が起点の一つなんでしょうね。

戦争への落とし前を付け損なった日本を
最後にむしろ丸ごと
生気の乏しい国として位置付けて
一方では、被害者であった朝鮮を
戦争以来犠牲者被害者のたぎり続ける思いの宿る国として描き、
「死んでいる生者の国日本」
「死者の熱い思いが今も生き続ける国朝鮮」
という対比で提示しているようにも見えます。
被害者の朝鮮かわいそうだよね
的に描くだけなのも何か違う
という意図があるのかも知れません。

しかし、そういう劇に
力強い題名を付けるのも
自分達はイデオロギー訴えてるんじゃない
ドラマをやってるんだ
って想いがあって
土着的な生命力を感じさせるタイトルに
なってるのかな。
今一タイトル回収できてない解釈やけども。

Wikipediaの丸ごと転記でしか無いですが
彼岸花は
天上の花とも地獄花とも
悲願の花とも言われ
情熱 独立 再会などの花言葉があり
毒性から「手腐り」との異名もあります。
同じ場所に密集して咲く彼岸花は
皆クローンなんだそうです。
唐さんや金さんが
彼岸花の謂れをどの程度踏まえてみえたかは分かりませんが
金さんが言われたという
「誤読を恐れないで」
思いを巡らせると色々寓意的だと思います。

web上の情報を辿って行くと
二つの重要な情報に行き当たりました。
一つ目は、唐さんの原作の結末は、今回の脚本とは異なっていることです。
劇の後半で海賊たちが殺し合ったあと
現場に留まっていた万寿シャゲは警察に殺人犯として連行され
劇の最後に憲となった田口が万寿シャゲの名を叫びながら航海に出る、
という感じみたいです(原典や実際の舞台を見ていないので正しさは保証できないです)。
原作の結末の方が荒涼としており、
戦争に翻弄された人々の想いが今も彷徨っているのだ、的なメッセージが読み取れそうです。
今回の脚本の方が、シャゲの熱い想いの成就が印象付けられ、観客に高揚感をもたらすように思います。
エンタメとしては後者の結末の方が観客の満足度は高そうです。2002年に新宿梁山泊でこの作品を一度上演していたのだそうですが、この時既に結末は改変されていたのでしょうか。それとも、安田さんのファンの方が相当数来場されることを見越しての改変でしょうか。
愛の乞食が満たされないままなのが原作、
少なくともシャゲは満たされたのが今作とも言えるでしょうか、
原作通りだと、私の提示した解釈とは大分変わりそうです。

二つ目は、
今回の舞台でも名前が登場した
サラリーマン田口の母親=小春 は
ジョンシルバーの女房の名前であるということです。
そこまで演劇に通じていないので後で調べて知ったことですが
「愛の乞食」は、海賊ジョンシルバー三部作の最終作で、前の二作で小春は非常に重要な役となっており、またシルバーは女房の小春の前から姿を消しているとのことでした。
原作「愛の乞食」でも、田口の母の小春が、ジョンシルバーの女房だったかどうかは明かされてはいないようです。

同姓同名の別人か、
やはり小春はシルバーの女房で田口はシルバーの実子なのか、
小春がシルバーの女房でも田口の父はシルバーとは別の男なのか、
原作でも今作でも、どれなのかによって解釈が変わりますが、
多義的に解釈できるように敢えて明かしていないというのが唐さんの意図かも知れません。

若干安田さん演じる憲兵の役回りが救いのない解釈になってしまっています。私が伊東蒼さんなのは確かですが、だから安田さん下げたとかいう訳では決してありません。
極限状況下での恋愛感情の扱いと劇の展開について、自分なりの落とし込みをした結果のように思います。最後の最後に憲兵がやっぱりお前が好きだ的な感じよりは、シャゲの怨念めいた愛に取り込まれる感じの方が、アングラっぽいじゃんていう単なる好みなんでしょうね。

或いはこうなのか。
留まることはできないが、往くことならばできる。魅入られたのかも知れないがこっちは元から還る当ても無い海賊、どこまででも往ってやる。そっちこそ覚悟はいいのかー?
ラストの盛り上がりからすると、こっちの方が馴染みそうですね。誤読をお許し下さい。






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