《虹色創作部》 夕やけと赤とんぼ 〜詩と掌編〜
1
赤とんぼさん、
夕やけが真っ赤だね。
知ってる?
あの色はね、お空が今日の終わりを
悲しんでいる色なんだって。
赤ければ赤いほど、
悲しいんだって。
今日は何でそんなに悲しいのかな?
昨日よりも赤いね。
赤とんぼさんは、
知ってる?
彼岸花がきれいだから?
きれいなものと別れるのがつらいから?
そうじゃないよ、
リンには分かるよ。
お空にもね、お母さんがいて、
お母さんが病気になっちゃってね、
あと一年しか一緒にいられないって
言われてね、
今日が最後の日だったからだよ。
リンのお母さんもね、
明日から入院しちゃうんだ。
しばらく会えないんだって。
だからね、
お空と一緒に泣くんだよ。
真っ赤になって。
赤とんぼさんも、
泣いてるの?
だから、
真っ赤に染まったの?
悲しい夕やけの色に。
お母さんが恋しくて…。

2
彼岸花の咲く公園で、
秋庭紗希子はブランコに乗る一人娘のリンの背中を押していた。
遠くに1つの影が見えた。
3年前に離婚した花宮悟もまた、再婚せずに1人暮らしをしていると風の噂に聞いていた。
紗希子は余命1年と宣告されてから、彼にこの事実を伝えるべきか悩んだ。紗希子の両親は離れた函館にいる。父親は寝たきりの母親の世話でいっぱいであろうから、頼ることは出来なかった。
そのうえ娘があと1年の命だと知ったら…とても告げることなど出来ない。
だから、悟を頼った。
彼はリンの実の父親でもある。
きっとリンを大切にしてくれるはずだ。
彼は最後まで、4歳になったばかりの幼い娘との別れを惜しんでいた。
離婚は紗希子の浮気が彼を傷つけた結果だった。本当は自分が引き取りたかったはずだが、リンが母親にべったりだったので諦めたのだ。
「リンちゃん。お父さんがお迎えに来てくれたから…いい子にしててね」
「お母さんは、いつ帰ってくるの?」
「そうね…春、くらいかしらね」
「桜の咲く頃?」
「ええ。そのつもりよ」
「じゃ、むかえに来てね。そしたら、また3人でお花見行きたいな」
「そう、ね…」
紗希子は薬の副作用で、今日は微熱もあり、体調が優れなかったが、入院が明日である。どうしても今日引き渡さなければならなかった。
悟が遠慮がちに歩いてきた。
「紗希子…久しぶり。顔色が悪いな、大丈夫か?」
「大丈夫よ。夕焼けのせいで、そう見えるだけ。今日はそんなに悪くないほうよ」
「相変わらずだな」
悟と別れて間もなく、浮気相手だった男も去っていった。
悟は一流企業のエリートで稼ぎが良く、紗希子の生活は潤っていた。
結局ヒモだったのだ。
悟と別れて、紗希子の金払いが悪くなるなり、男は姿を晦ました。
「代わるよ」
悟は紗希子を休ませるように、ブランコの後ろに立ち、リンの背中を押した。
「お父さん…だよね?」
リンが背中を押されながら訊ねる。離れていく体が先ほどよりも高く、宙に浮く。
「そうだ。大きくなったな、リン」
戻ってきたリンの背中をもう一度押しながら、悟は答える。
「お母さんが帰ってくるまで、ちゃんと2人で待ってような!」
「うん!」
「いい子だ!」
また、高く浮く。
赤い空が近い。
赤とんぼが、目の前を横切るように飛んでいく。
だが、次に戻ってきたとき、リンの背を押す父の手は別のところにあった。
悟は紗希子を支えるように抱いていた。
リンも母の顔色の悪さにようやく気づく。
母は父の支えが無ければ、今にも倒れ込んでしまいそうに見えた。
「お母さん!」
慌ててブランコを降りて、両親の側で2人を久しぶりに見上げた。
「お母さんは具合が悪い。お父さんが車で家まで送っていくから」
リンは、父のズボンをつかむ。
「…お母さん、治るよね?」
「治るさ」
父の笑顔に励まされ、リンも笑った。
赤とんぼが、リンの鼻の上に止まると、母もほのかに笑った。
もうすぐ日が暮れる。涼しい風が秋の気配を連れてくる。
夕陽が、最後の光をきらりと閃かせた。

3
赤とんぼ
はかない命
揺らして
あとどのくらい生きるの?
秋を越えられる?
冬は?
春を、知っている?
母の笑顔のような。
(終)
《虹くりっぷ@文フリ41 さま》
お題を使わせていただきました。
詩と掌編小説のコラボにしてみました。
いつもありがとうございます😊
