ドビュッシー《春が来た》
Voici que le Printemps(春が来た)
歌詞:ブールジェ (Paul Bourget)1852-1935
1882年に出版された彼の詩集『告白(Les Aveux)』の中に収録されている詩(「ロマンス(Romance)」です。この詩に固有の独立したタイトルは付けられていません。
第1連
Voici que le printemps,ce fils léger d'Avril,
ほら、春がやってきた、この4月の軽やかな息子が、
Beau page en pourpoint vert brodé de roses blanches.
白いバラの刺繍が施された緑の上着を着た美しい小姓が、
Paraît leste,fringant et les poings sur les hanches,
身軽で粋な姿で、腰に両手を当てて現れる、
Comme un prince acclamé revient d'un long exil.
長い亡命生活から歓声を浴びながら戻ってくる王者のように。
第2連
Les branches des buissons verdis rendent étroite
青々とした茂みの枝々が狭くしている
La route qu'il poursuit en dansant comme un fol;
彼が狂ったように踊りながら進んでいく道を。
Sur son épaule gauche il porte un rossignol,
彼の左の肩には一羽のサヨナキドリが止まっており、
Un merle s'est posé sur son épaule droite.
右の肩には一羽のクロウタドリが止まった。
第3連
Et les fleurs qui dormaient sous les mousses des bois
そして森の苔の下で眠っていた花たちは
Ouvrent leurs yeux où flotte une ombre vague et tendre;
ぼんやりとした優しい影が漂うその目を開き、
Et sur leurs petits pieds se dressent,pour entendre
聞き取ろうと、自分たちの小さな足で身を起こす、
Les deux oiseaux siffler et chanter à la fois.
二羽の鳥が同時に口笛を吹き、歌っているのを聞こうと。
第4連
Car le merle sifflote et le rossignol chante;
なぜならクロウタドリは口笛を吹き、サヨナキドリは歌うからだ。
Le merle siffle ceux qui ne sont pas aimés,
クロウタドリは愛されていない人々をからかうように鳴き、
Et pour les amoureux languissants et charmés,
切なさに胸を焦がし魅了された恋人たちのために、
Le rossignol prolonge une chanson touchante.
サヨナキドリは胸を打つ歌声をいつまでも響かせる。
春の訪れとともにやってきた「擬人化された春」の肩には、2羽の鳥(クロウタドリとサヨナキドリ)が乗っています。
第1連:擬人化された「春」
ce fils léger d'Avril (4月の軽やかな息子)
⇒4月生まれの、若くて身軽な子供、青年
Beau page en pourpoint vert brodé de roses blanches
(白いバラの刺繍が施された緑の上着を着た美しい小姓)
⇒「緑」は春の若葉の色。
⇒「小姓(ページ)」は貴族に仕える見習いの美少年。
白いバラの刺繍が入った緑の衣装を着た、おしゃれな姿です。
leste, fringant et les poings sur les hanches
(身軽で、粋で、腰に両手を当てて)
⇒軽快でおしゃれ、自信満々に腰に手を当てている堂々とした態度です。
Comme un prince acclamé revient d'un long exil
(長い亡命生活から歓声を浴びながら戻ってくる王子のように)
⇒冬という長い間(亡命)がい終わり、皆に歓迎されて戻ってきた王者のような、華々しい登場です。
「緑の衣装を着た、身軽で自信に満ちた、美しい王子の若者」として「春」が描かれています。
第4連「鳥たちの鳴き分け」
ここは、クロウタドリ(le merle)とサヨナキドリ(le rossignol)という2種類の鳥が、それぞれ「対照的な立場の人たち」に向けて歌っているというロマンチックなユーモアが描かれています。
クロウタドリ(le merle)の歌
「クロウタドリは愛されていない人々をからかうように鳴き」
⇒春が来て恋の季節が始まったというのに、「まだ恋人がいない人」「片思い中の人」「フラれてしまった人」たちのことを、クロウタドリはピュウピュウと口笛を吹いて茶化している(冷やかしている)かのように鳴いています。
サヨナキドリ(le rossignol)の歌
「切なさに胸を焦がし魅了された恋人たちのために、サヨナキドリは胸を打つ歌声をいつまでも響かせる」
⇒すでに両思いで甘い恋に浸っている人たちや、恋に切なく悩んでいる人たちには、サヨナキドリがうっとりするような美しい美しい愛の歌を長く歌い続けて、彼らの気持ちに寄り添っています。
詩の特徴
音節(1行12音節)
フランス語の伝統的な定型詩(アレクサンドラン)に従い、語末の E(ミュートのE)の扱いやエリジオン(母音の脱落)に配慮して12音節で朗読されます。
脚韻(Rime)
全連とも 交差韻(A-B-A-B) で構成されています。
1884年作曲:ドビュッシー(21~22歳)
ローマ大賞への挑戦と受賞
ドビュッシーはパリ音楽院で作曲を学んでおり、若手音楽家の登竜門である最高峰のコンクール「ローマ大賞(Prix de Rome)」に挑んでいました。
1883年:カンタータ『グラディウス』次点(第2席)獲得
1884年:カンタータ『プロディガル・ソン(放蕩息子)』最高賞(第1席)
を受賞。これにより、翌年から国費留学生としてイタリア・ローマの「ヴィラ・メディチ」へ留学することが決まります。
マリー・ヴァニエとの出会いと恋
マリー=ブランシュ・ヴァニエ夫人(Marie-Blanche Vasnier, 1848年 - )は、19世紀末のフランスにおいて、若き日のクロード・ドビュッシーの才能を大きく開花させた最大のミューズ(霊感の源)であり、アマチュアの優れたソプラノ歌手です。
ドビュッシーは少年時代、恵まれた教育を受けておらず教養が不足していましたが、ヴァニエ夫妻(知的な家庭環境)に温かく迎え入れられました。自宅には専用の部屋を与えられ、本棚にあった膨大な詩集や文学書、辞書を読み漁ることで、のちに彼の音楽の基礎となる象徴派の詩(ヴェルレーヌなど)への造詣や高い文学的教養を身につけることができました。
この曲が書かれた1884年は、コンクールでの栄誉(ローマ大賞の受賞)を掴み、さらに年上のマリー夫人との甘く切ない恋に夢中になっていた、ドビュッシーにとって最も若さと情熱に満ち溢れていた青春真っ盛り・絶頂期の頃でした。そうした瑞々しい恋の感情や春のきらめきが、この音楽のバックグラウンドに色濃く反映されています。
ローマへの出発の際、ドビュッシーは彼女のためにそれまで書いた歌曲をまとめた手書きの曲集を贈り、冒頭に情熱的な献辞を綴りました。
(通称「ヴァニエ小歌曲集」)
À Madame Vasnier.Ces chansons qui n'ont jamais vécu que par elle, et qui perdront leur grâce charmeresse si jamais plus elles ne passent par sa bouche de fée mélodieuse.L'auteur éternellement reconnaissant.C. D.
マリー・ヴァニエ夫人へ。これらの歌は、彼女によってのみ生き、彼女のメロディの妖精のような唇から二度と奏でられなくなってしまったなら、その魅惑的な優美さを失ってしまうだろう。永遠に感謝する作者より。C. D.
